技術者塾での前野先生の講座(「パワーエレクトロニクスを含む、車載電子機器のEMC対応設計」)は、受講者から「実践的だ」と言われます。その理由は何でしょうか。

前野氏:実務で応用できるように、電子機器で生じる具体的な現象を説明しつつ、その現象について基礎理論にまで戻って解説するように心掛けているからでしょうか。つまり、実際の製品(実製品)と理論をできる限り結びつけようと心掛けていることが私の講座の特徴だと思っています。

 アカデミックな講座の多くは基礎理論の解説を中心に普遍的に学べるものの、いざ設計現場で応用しようとすると難しい面もあります。一方、実務経験のある講師の講座の多くは具体例が多くて分かりやすい半面、普遍性がないため、受講者の実務にそのまま活用することが難しい面があります。

 さらに言えば、アカデミックな講座の多くは基礎学力が備わっていないと理解が難しい。一方で、実務経験を持つ講師の講座の多くは「雑学」のようなもので、その場では「ああ、そうか」「なるほど」と感じるものの、基礎理論まで迫れません。いずれにせよ、そのままでは実務に応用することは難しい。

 そこで、私の講座では実務経験ベースの講座とアカデミックな講座をつなげるような講座内容に仕上げています。受講者の方が現場で格闘しているEMC対策に少しでも生かしてほしいと思っているからです。

実務経験が豊富な上に博士号も取得している前野先生ならではの視点ですね。具体例を交えながらもう少し詳しく教えてください。

前野氏:例えば、プリント基板のパターンを作成する「アートワーク」。ここでは「やってはいけないこと」と「やるべきこと」があります。ここで、やってはいけないことの1つに「共通グラウンド層にスリット(細長く銅箔を取り去った部分)を設けてはならない」というものがあります。多くの回路設計者の間で「常識」として知られているものです。

 例えば、1枚の多層プリント基板にアナログ回路とデジタル回路、電源回路が設けられているとします。2層目がグラウンド層だったとして、パターンにスリットを設けて回路ごとにグラウンドを(3つに)分離するというものです。ここでよく説明されるのが、「スリットがあると流出ノイズが増えてしまう。だから、スリットをなくして流出ノイズを減らすべし」というものです。多くの講座ではここでスリットの是非に関する話題は終わり、次の話題に進むことでしょう。

 しかし、私に言わせてもらえば、正解は「なぜスリットはいけないのか」です。確かに、グラウンド層を機能回路別にスリットで分離するといくらか良くなるケースもあります。しかし、悪影響をもたらすことの方が圧倒的に多い。教えられて条件反射的に「スリットはダメだ」と覚えるだけでその原理を理解していないと、設計現場においてスリット論者である上司や顧客に論破されてしまいます。実際、本当はスリットを設けてはいけない箇所にスリットを入れてしまう場合がよくあるのです。

 これを理解してもらうために、私の講座ではまず、スリットにはどのようなものがあるかを説明し、続いてどのようなスリットが良くて、どのようなスリットが悪いかを解説します。その上で、理由について基礎理論に立ち返って説明していきます。こうして「腑に落ちる」ように理解してもらうのです。

 実践データを踏まえて実践的に解説しつつ、最後は現象を電磁エネルギーの伝送まで説明して納得していただきます。