デジタル回路における高周波ノイズ対策の必要性や、搭載する受信機類の増加という状況は、車載機器はもちろんですが、デジタル機器や家電製品、産業用機器など他の電子機器にも当てはまりますね。では、車載電子機器に特有の難しいEMC対策として、最近目立っているものはありますか。

前野氏:ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)向け電子機器のEMC対策です。HEVやEVでは駆動用モーターに大電流を流す必要があります。また、モーターをPWM (パルス幅変調)制御でコントロールします。このPWM信号はそれ自身が100Aクラスの大電流である上にパルス信号ですから大量に高調波を含んでいる。ということは大量の高周波成分が含まれているので、低周波から高周波までノイズとして他の電子機器への妨害源となる可能性が大きいのです。

 加えて、HEVの電子機器では高電圧を扱います。例えば、代表的なハイブリッドシステムでは650Vの電圧を使っています。通常のクルマ、いわゆる「12V車」は「-(マイナス)」側をクルマのボディーに直に接地する「ボディーグラウンド」を採ることができます。電圧が低いので感電するリスクがないからです。これにより、電源線に乗ったノイズの低減対策は比較的行いやすいと言えます。

 ところが、HEV向けの高電圧になると直接的にボディーグラウンドを採用することは難しい。この高電圧では感電する危険性があるからです。その分、ノイズ対策が難しくなるのです。

 多機能化や高機能化にともない、複数の電子機器が密集配置されているのもEMC対策をやっかいにしています。今のクルマには50個以上の電子機器が搭載されています。内蔵されているマイコンは軽く100個を超える。それらが狭い車内空間にひしめき合うように詰め込まれているのです。

 実は回路基板を小型化するとEMC対策にとっては有利になります。小型化するとアンテナを小さくするようなもので、ノイズを受信しにくくなるからです。しかし、回路基板がコンパクトになると、より多くの電子機器が同じ空間に詰め込まれます。すると、EMC環境は悪化してしまうのです。