プラーナー会長 栗山 弘氏
プラーナー会長 栗山 弘氏
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プラーナー社長 栗山晃治氏
プラーナー社長 栗山晃治氏
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 自動車のリコール問題や電機製品の市場クレームが日本企業を悩ませている。その原因の1つが「ばらつき」であり、これを解決するには公差設計を正しく行う必要がある。だが、設計業務は増える一方で、最近の設計者はとても忙しい。「技術者塾」において「公差解析ソフトの演習で学ぶ 効率的な公差設計手法」〔2017年3月13日(月)〕の講座を持つ、プラーナー会長の栗山 弘氏が、公差設計を効率的に行う方法を紹介する。(聞き手は近岡 裕)

──改めて質問したいのですが、最近日本企業の図面の品質はどうなっているのでしょうか。

栗山 弘氏:設計部門の部長をはじめとした管理者の多くが、「図面品質が落ちている」と語っています。

 少し前になりますが、『日経ものづくり』が2012年12月号の「数字で見る現場」で「図面の品質(内容と描き方)」に関するアンケート調査を実施しました。その中で「あなたの会社で流通する図面の品質を高めなければならないと感じるか」という質問に対し、52.9%が「大いに感じる」、36.0%が「少し感じる」と回答しました。実に88.9%が図面の品質を高める必要性を感じていたのです。回答者のほとんどは日本企業の技術者です。正直、このときの状態からあまり変化していないというのが、最近のコンサルティングなどを通じた私の実感です。

 具体的には、公差設計力および図面品質に不備があり、量産で影響が出ているケースが目立ちます。生産部門の実力が高い日本では問題がなくても、海外生産でトラブルが発生する例が増えているのです。私たちは公差設計の実践的な指導に力を入れています。その際に、まずは図面をチェックしようとしても、肝心の公差計算書を作成していないとか、不十分だとかいうことが珍しくありません。公差計算書がないのでは、図面の出来具合を判断することすらできません。つまり、この図面は、どこが基準で、どこをどれくらい管理したくて描いているのか、そういう議論さえもできないということです。設計者の意図が見えない中での図面表記チェックでは本来の価値には至らないのです。

──しかし、公差計算書がなくて図面の品質が高くなくても、製品は出来ているのではありませんか。

栗山 弘氏:私たちは、「公差計算書は、設計に必須の4項目を造り込むために必要なもの」と、セミナーの受講者や顧客企業に説明しています。具体的には次のような項目です。

[1]製品機能の実現
[2]製品品質の安定化
[3]部品公差値の決定
[4]重点管理ポイントの明確化(どこが基準で、どこをどれくらい管理したいか!)

 これらを造り込まなければ、きちんとした図面とは言えないということは、一瞥しただけで分かると思います。ではなぜ、公差計算書がなくても「一応の図面」が出来ているのか。それは流用設計が多いからでしょう。具体的には、製品の小型化や薄型化、高機能化、コスト削減などを進める設計です。こうした流用設計の図面であれば、新たに公差計算をしなくても何とかなるというわけです(実は、そういう場合でも公差計算は常に必要なのですが、今回は割愛します)。幸いと言うべきか、3次元CADの普及で流用設計は簡単にできるようになりました。

 しかし、従来とは機能や形が全く異なる製品には、当然ながら流用設計は通用しません。つまり、これまでにない画期的な製品を生み出す場合は、公差計算をきちんと行って正しい公差設計ができないと、まともに設計することはできないのです。昔は従来にない世界初の製品の図面を描く機会がたくさんありました。実は私もそうした図面を数多く手掛けてきました。それ故に公差設計に強くなったという事情があります。

 これからの時代は流用設計ではなく、従来にない機能や外観デザインの製品を設計することが求められます。それを支える付加価値の高い図面を作成するために、もう一度、公差設計を見直す必要があると思います。