OJTが機能しない環境に

──公差設計を正しく実践できている日本企業は多いのですか。

栗山氏:その質問をすれば、「できている」と答える設計部門の管理者は多いと思います。しかし、実際にはできていない、あるいは断片的にしかできていない日本企業が多いというのが実感です。特にガタ・レバー比の領域では、十分に理解して実践している人は極めて少ないと思います。

──それはなぜでしょうか。

栗山氏:やはり、先に述べた「公差設計が競争領域である」ということが一因だと思います。企業にとって競争領域でありノウハウであるため、公差設計について学ぶ機会が少ないのです。他社の公差計算書を見る機会など、まず考えられません。すると、学ぶ機会はOJT(On the Job Training)しかないということになる。ところが、最近は多くの日本企業が「OJTがうまくいっていない」と悩んでいます。

 私がメーカーで設計者として働いていた時は、自分が描いた図面で公差計算を行い、それを基に生産現場に行って加工の担当者や計測の担当者などと議論して、適正な公差計算であることを確認していました。設計部門の棚には公差計算書がたくさんあり、いつでも参考にすることができましたし、要所で先輩の教えを請うこともできました。

 ところが、今の設計者はかつてとは比較にならないほど忙しい。先輩も多忙で、若手を教えている時間がない。加えて、過去の図面の流用やコピーが簡単な3次元CADを使うようになったこともあって、OJTがかつてほど機能しなくなっています。それでも何とかなってきたのは、生産部門でカバーしてくれていたからです。しかし、生産部門ではベテランがどんどんいなくなっている。いつまでも生産部門に甘えるわけにはいかないはずです。