公差設計は「競争領域」

──公差設計と幾何公差がクルマの両輪ということは分かりました。でも、なぜ相乗効果が得られるのでしょうか。

栗山氏:「幾何公差は共通領域で、公差設計は競争領域である」──。これは、ある大手企業の設計部長を経験した人の言葉です。まさに正鵠を得た表現だと思います。

 幾何公差はJIS規格として定められたので、全ての設計者が対応しなければなりません。しかし、皆が対応するので差は付かない。図面の競争力を左右するのは、実は公差設計の方なのです。それが証拠に、公差設計を教える講座は少ない。なぜなら、公差設計は個々の企業でノウハウを積み上げて完成度を高めるものだからです。競争力の源泉であるノウハウを社外にオープンにする機会が少ないのは当然でしょう。それはともかく、図面の競争力を高めるには、正しい公差設計ができるようになる必要があります。

 相乗効果が得られるというのは、公差設計を習得すると、幾何公差を学ぶ意欲が一気に高まるからです。公差設計を学ぶと、幾何公差の必要性や価値がよく分かるようになるのです。

 というのは、公差計算では、図面のどこが基準でどこをきちんと造り込みたいかを追求するからです。これを繰り返していくと、ムダを省いて必要な公差に絞って幾何公差化していくようになります。すると、やがて図面が変貌を遂げる。公差の数が激減し、加工や計測の管理項目も大きく減ります。結果、コスト削減と品質向上をもたらすようになるのです。

 公差設計と幾何公差の両方を学ぶことで得られるこうした相乗効果を手にすることで、経営者は心から満足します。実際、私たちは多くの経営者の笑顔を見てきました。