小松技術士事務所 所長 小松道男 氏
小松技術士事務所 所長 小松道男 氏
[画像のクリックで拡大表示]

 プラスチックで世界をリードする欧州。広大なグローバル市場を持ち、堅実なニーズを生む航空宇宙や医療産業を域内に抱えることから、材料や金型、射出成形機の技術でも、環境規制の動向でも世界の先端を行く。こうした世界最先端の技術や動向を「日本企業はいち早く押さえて応用展開に生かすべき」と説くのが、「技術者塾」において「世界をリードする欧米企業に見る プラスチックの最新応用技術」〔2017年2月24日(金)〕の講座を持つ、小松技術士事務所所長の小松道男氏だ。欧州のプラスチック技術や動向を聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──世界の先端を行く欧州のプラスチック業界では今、どのような動きがあるのですか。

小松氏:顕著なのは環境負荷低減の姿勢です。そのことに関して欧州全体でコンセンサス(合意)を得ています。2016年11月4日に電撃的に発効したCOP21国連気候変動枠組条約「パリ協定」を受けて、環境保護の姿勢を一層強めています。

 中でも問題視されているのが、海洋ゴミ「マリンリッター(Marine Litter)」です。特に、細かいプラスチック片のゴミである「マイクロプラスチック」が俎上に載せられています。

 プラスチックの世界の生産量は約2億8000万t/年。このうち、7.1%に当たる約2000万tが海洋に流出していると考えられています。これらの流出樹脂は、劣化や波浪などで破砕されてマイクロプラスチックになります。このマイクロプラスチックがやっかいなのは、食物連鎖に従ってプラスチック汚染が人間にまで影響を及ぼす可能性がわかってきたからです。マイクロプラスチックは海水中のポリ塩化ビフェニル(PCB)等を大量に吸着しやすい性質があり、石油系プラスチックが元来含有していた微量重金属と一緒に小魚や魚貝類などに吸収されます。これらがより大形のマグロや鳥類などに捕食されることで有害物質が濃縮されていき、最終的に人間の体内に入る危険性が指摘されているのです。

 プラスチックを燃やせば地球温暖化につながり、海洋に流出すれば海を汚染して魚介類を食べられなくする。こんなプラスチックのあり方を考え直さなければならないと、欧州が声を上げ始めたのです。これは、いわば「自己否定」です。化石燃料を原材料に長年大量生産・大量廃棄の道を歩んできたプラスチック業界が、これまでの自分たちの考え方を大きく転換しようとしているからです。石油から樹脂を造って環境を汚染してきた。しかし、それを考え直さなければならない、と。

急成長する生分解性プラスチック

 このマリンリッターを食い止める方策として浮上してきているのが、「生分解性プラスチック」です。フランスは、2016年7月から石油系プラスチック製の買い物袋の使用を禁止しました。2020年の1月からは、あらゆる使い捨てのプラスチック製食器について生分解性素材を50%以上使わなければならないと法制化したのです。

 生分解性プラスチックで最も生産量が多いのはポリ乳酸(PLA)です。欧州はこのPLAを全面的に導入する方向で動き出しており、既に事業化も始まっています。2019年までのバイオチック(生物資源から造るプラスチック)の伸びは2016年比で350%と予測されています。この中で、PLAの世界の生産量は2016年の推計で26万t/年であるのに対し、2020年には80万tまで伸びるという予測まであるのです。

 こうした動きを捉え、欧州企業は生分解性プラスチック関連製品の開発を加速しています。例えば、ドイツBASF社は完全生分解性の発泡プラスチック「ecovio」を発表しました。現行の発泡スチロールの代替製品です。材料は主原料がバイオベース。脂肪族芳香族コポリエステルにポリ乳酸をある割合で混合させます。これによりPLAは発泡促進効果を持つため、良好な発泡体を造ることができるのです。この新材料の特徴は分解速度が速いことで、形状にもよりますが6カ月ほどで水と二酸化炭素に生分解します。世界中の発泡スチロールが置き換わる可能性があります。

 フランスのスーパーメジャー(国際石油資本)であるTotal社は、オランダのCorbion Purac社と50%対50%の合弁会社を設立すると2016年11月に発表しました。この合弁会社が世界一のPLAメーカーになる可能性があります。新会社は直近では世界のPLAで20%のシェアを目指しているようです。