プリベクト代表取締役の北山一真氏
プリベクト代表取締役の北山一真氏
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 「うちは技術力には自信がある。でも、その割に儲(もう)からない…」。こう嘆く日本企業は日増しに増えている。「技術者塾」は、高い技術力にふさわしい利益を生み出し得る新しい設計手法「プロフィタブル・デザイン」の講座を企画した。講師のプリベクト代表取締役の北山一真氏に、プロフィタブル・デザインの内容や学ぶポイントなどを聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──プロフィタブル・デザインをまだ知らない人もいます。プロフィタブル・デザインとは何かについて、分かりやすく教えてください。

北山氏:「技術力があるのに、なぜ儲からないのか?」。今、多くの日本企業が抱えるこの悩みについて解決する方法を提言したものがプロフィタブル・デザインです。

 よく「設計開発段階でコストの約80%が決まってしまう」と言われます。従って、事業の収益性の観点からも、儲けるための設計開発をいかに行えるようになるかがポイントとなります。つまり、設計開発には競争力をつける視点だけではなく、収益性の観点も必要となるのです。「競争力のある製品」と「儲かる製品」の両立を図らなければ、20年後、30年後に日本企業は生き残れないでしょう。

 収益性を高めて生き残るには、「設計と原価を融合させた業務改革」が必要です。ところが、多くの日本企業は現在、設計と原価がバラバラの状態です。そこにメスを入れるのがプロフィタブル・デザインの神髄です。

 プロフィタブル・デザインは大きく2本の柱で成り立っています。1つは、競争力のある製品を実現するために設計高度化の取り組みを実施すること。もう1つは、儲かる製品を実現させるために固定費マネジメントの取り組みを行うことです。

──プロフィタブル・デザインを今、なぜ学ぶ必要があるのでしょうか。できれば事例を挙げながらプロフィタブル・デザインを習得する利点を教えてください。

北山氏:儲かる設計の好例は米Apple社のスマートフォン「iPhone」です。iPhoneが儲かる理由は何でしょうか。

 一般的な認識は「iPhoneは魅力的な製品であり、イノベーティブだから儲かるのだ」というものです。しかし、イノベーティブであることは売れる理由にはなっても、利益率が高い説明にはなりません。事実、スマートフォンで最もシェアが高いのは韓国Samsung社の「GALAXY」です。ところが、Samsung社のモバイル部門の営業利益率は15%前後ほど。これに対し、シェアが2位であるApple社の営業利益率はなんと30%近くに達しています。

 この大きな理由は、Apple社が「徹底的な固定費マネジメント」を行っているからです。Apple社は工場は持たないものの、工作機械などの設備は自ら投資を行っていて固定費を抱えています。そこで、固定費を徹底的に活用するために画面サイズを5年間も変えなかったり、サプライヤーの工場を徹底的に調査・観察したりして固定費マネジメントを踏まえた製品設計を進めているのです。このように、儲かる製品を造るためには固定費マネジメントの観点が必要になります。

 誤解しないでほしいのですが、固定費マネジメントを徹底して儲ける設計をするといっても、コストを意識しながらケチケチした設計をしようというわけではありません。むしろ、ケチケチしたり我慢したりすることばかりを強いられると競争力は損なわれます。固定費マネジメントと対を成す、競争力のある製品を生み出す設計高度化の仕組みも大切です。すなわち、固定費マネジメントと設計高度化が両輪になることでプロフィタブル・デザインとしての意味を成すのです。

 設計高度化は企業のナレッジを中心に置いています。ここでいうナレッジとは、人の苦労や工夫、失敗などの経験を指します。製造業はものづくり企業であるため製品や部品といった物に着目しがちですが、物は時代によって変化します。しかし、その企業で培ったナレッジ(苦労・工夫・失敗などの経験)は普遍的な資産です。そのナレッジをしっかりと棚卸し、体系化して生かしていく取り組みが必要です。

 ナレッジを可視化できれば多くの企業で問題となっている次のような課題、「ベテランのノウハウを技術伝承させたい」「属人的でバラバラな設計をしていたら非効率。人による違いをなくしたい」「グローバルでの開発を進めたいが、技術流出の懸念があるため海外へは技術をブラックボックスにしたい」など──を解決することができます。

 設計高度化と固定費マネジメントの両方を理解することで、技術力が高いけれど儲からないと悩む企業が進めるべき改革のポイントを明確にできます。