高安篤史氏=コンサランス 代表、サートプロ IoT技術講師、中小企業診断士
高安篤史氏=コンサランス 代表、サートプロ IoT技術講師、中小企業診断士
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 IoT(Internet of Things、もののインターネット)化には「落とし穴」がある──。そう警鐘を鳴らすのが、「技術者塾」において、「製造業向けIoT講座シリーズ 必修編」の講座の講師を務める高安篤史氏(コンサランス 代表、サートプロ IoT技術講師、中小企業診断士)だ。IoTの導入でこれまでにない高効率化や高付加価値化に大いに期待を抱く半面、落とし穴に気付かない企業が少なくないという。その落とし穴とは、「ビジネスモデルとセキュリティー」(同氏)だ。落とし穴である理由と解決策などを同氏に聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──IoTに関する教育ニーズが高まっているようです。

高安氏:高まっています。製造業向けを含めていろいろなタイプのIoTセミナー・研修が出てきました。IoTに関連付けて自社のシステムを販売するために無料セミナー・研修を行う企業もあります。このタイプは“財布”に優しく取っつきやすいという利点がありますが、受講者にとっては幅広く比較検討して設備やIoTプラットフォームを選べないという課題があります。

 当然、企業はそれぞれ造っている製品や提供しているサービスが違います。そのため、比較検討ができなければ、最適なIoTシステムを導入できているか否かを判断できません。自社にとって最適なIoT化を進めるには、やはり、課題解決のためのIoT技術を学ばなければならないと思います。

効率改善だけで十分?

──IoTを導入する際に、日本企業が気をつけるべきポイントはありますか。

高安氏:IoTを導入する際には多くの企業が陥る「落とし穴」があります。その1つが「ビジネスモデル」です。

 IoT化の目標として効率改善を掲げる企業は多いのですが、将来的にはそれだけでは十分ではなくなるはずです。IoT化の最終目的は、やはり、ビジネスとして「儲ける」ことでしょう。IoT化を懸命に進めても、儲けを出さないとコストばかりが増えていくことになりかねません。そう考えると、ビジネスモデルを構築することが大切になります。逆に、ビジネスモデルを構築せずにIoT化を進め、機械や設備同士をつないでデータを収集しても、その後で困ると思います。「データは取れるようになった。でも、どう使うんだ?」と。

 今、IoT化に対応しなければならないと認識している経営者は増えています。そうした経営者の多くは、社員(多くは中堅社員クラス)の中からIoTの推進リーダーを任命し、IoTの研修を受けることを命じます。任命されたIoT推進リーダーは技術的な研修を受け、つなげる方法もデータの取得方法もデータの分析方法も学びます。それらを持ち帰ることで、社内の業務改善に生かせることでしょう。ところが、IoTを使いこなしていかに儲けるかということがなかなかできないのです。

 経営者は「IoT化で儲けたい」というのが本音。そのために、ビジネスモデルまで考えてもらうことを望む人が多いのです。しかし、IoT推進リーダーを任命しても、ビジネスモデルまで考えられる人は少ない。任命される社員に技術者が多くて慣れていないということもあるのでしょう。効率改善を超えて、商品価値や付加価値を高めるビジネスモデルまで考えられるケースは珍しいのです。こうした場合に、外部の講座を利用する方法が有効です。既存の製品やサービスに対し、ユーザーに与える価値をさらに高める新しいビジネスモデルの考え方を教える講座があれば効果的です。

 ビジネスモデルの構築まで考えたIoTプロジェクトを進めていくためには、社内のいろいろな部門が関わる必要があると思います。設計開発や製造・生産技術・マーケティング・経営企画、購買、品質保証、営業、原価管理(経理)といった部門が参画すべきです。経営企画部門の1、2人の社員に任せるという進め方は、どうもうまくいかないようです。IoTは対象の幅が広く、多様な人材を要するからでしょう。そのため、全社から幅広く人材を集め、チームとしてビジネスモデルを考えた方がうまくいく確率が高まるのではないでしょうか。

 ただし、何カ月も時間をかけて検討すればよいというものでありません。それよりも、「ちょっとやってみよう」という具合に捉えて、早く取り組むことを勧めます。試行錯誤しながら、最初は小さく進めていく方がうまくいく傾向があります。実際に進めることでいろいろなデータが集まってきて、より良い考えが浮かんでくるものだからです。