システム開発において、意図したものが実現できるように「要求」を書くのは難しい。要求を書くときには、まず頭の中に意図するものがある。この意図から書きたいものが形を成し、「書く」という行為によって要求が出来上がる。書かれた要求を読んで、最初の意図が分かれば問題ないが、必ずしもそうならないのが現実である。

 要求が書かれた文書に関しても、その名称はさまざまであり、書かれた内容もさまざまだ。要求だけでなく「要望」や「意図」が含まれていたり、設計仕様が混じっていたりする。一般的に要求と設計の違いは、「What」と「How」の違いだと広く認識されている。それでは、意図と要求の違いは何か。両者の関係は何か。
 
 筆者は意図と要求、および要求が実現する安全に関心を持ち、「組込みシステム技術協会(JASA)」の安全性向上委員会で2012年度から「意図したものが実現できる要求定義」に向けた活動に取り組んでいる。この活動は2015年度に「安全仕様化ワーキンググループ(WG)」へと衣替えし、安全が関わる要求を仕様化するプロセスを研究している。WGでは2016年度に「安全誘導型設計」と名付けたプロセスモデルを提案する活動を展開している。著者は、このWGによる知見を基に「意図を記述すれば、安全性が高まる」という仮説を立てた。この仮説を理解してもらうことを意図し、本稿では安全誘導型設計の特徴と、仮想的な電動アシスト自転車開発への適用例を解説する。