日本の製造業は品質を重視する経営で高いグローバル競争力を実現してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを支援してきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。企業・組織が品質に関する事例発表を行う日科技連主催の「クオリティフォーラム」(2016年11月21、22日)が開催されたのを機に、日経テクノロジーオンラインはセッションの登壇者などへのインタビュー記事を連載する。今回は「企業風土を活かしたHonda独自のTQM活動」に登壇するホンダ 品質監理部主任技師の園田俊也氏のインタビュー(下)をお届けする。(聞き手は中山力、山崎良兵)

―――ホンダにおけるTQM活動は成熟度に応じて3段階に分かれており、若手を対象とした初級コースの中では「New Honda サークル」(NHサークル)を全世界で展開されています(前回参照)。では、中堅を対象とした中級コースはどのようなものでしょうか。

園田俊也 氏
園田俊也 氏
ホンダ 品質監理部部付主任技師。1979年に本田技術研究所に入社。4輪エンジン設計に配属され、F1エンジン開発責任者や初代FITエンジン開発責任者など、研究開発に20年間従事した。その後、商品技術戦略室室長などを経て、2006年にHonda R&D America社の副社長、2008年にHonda R&D Asia Pacific社の社長に就任。2010年に本田技研工業の品質保証部部長、2014年に品質監理部部長、2016年から現職。

園田:中級コースの1つに、品質レース活動(品質表彰制度)があります。1980年代後半のリコール増加を受け、1990年に開始された「The Best Quality Award」のことです。方針管理に基づく品質施策をテーマに、その目標達成度や改善度、チャレンジ精神などが評価されます。

 1年間に1800チームが参加するこのレースは、全部門、全員参加が前提です。レースで勝つには、発表チームだけでなく所属組織や上司の協力が不可欠だからです。発表チームの「QCスキル」力と、所属組織の「日常管理」力、上司の「方針管理」力の合計としてTQM実践力が問われるわけです。F1レースにたとえれば、発表チームはドライバー、所属組織はF1マシン、上司は戦術の役割を担います。

 品質担当役員が毎年、1.5カ月掛けて世界各国の拠点を訪問し、従業員とコミュニケーションをとりながら表彰も行います。4年間で世界の全拠点を訪問し、4000人と交流するのです。実は、品質担当役員が海外拠点も訪問するようになったのは4年前から。それまでは各拠点のトップが表彰していました。

 しかし、この方法では拠点ごとに表彰のレベルにばらつきがでやすく、世界の全員が一緒にやっているという意味合いが伝わりにくい。グローバルの品質の長である担当役員が一貫して訪問することで、この課題を解決しようとしたわけです。さらに世界の一体感を高めるため、社内イントラネット上に成果や表彰結果を公開することも始めています。