マツダ代表取締役会長の金井誠太氏が、日本科学技術連盟が主催する「第105回品質管理シンポジウム」(2017年11月30日~12月2日)の特別講演に登壇(図1)。これからのマツダの技術開発の方向について語り、そうした開発に必要なイノベーションを支える条件についても披露した。

2つの不安を乗り越える

 マツダは、2006年の時点で2015年に「ありたい姿」をみんなで考えた。この「バックキャスティング」の取り組みが最も重要だった。約10年先のことなので、思い切って夢を語り合うことができた。語り合ううちに、そうなりたいと思うようになった。遠くのゴールをイメージできるようになってきたら、足下の障害がどんなものであっても乗り越えようという気持ちになっていったのだ。

図1◎マツダ代表取締役会長の金井誠太氏
[画像のクリックで拡大表示]
図1◎マツダ代表取締役会長の金井誠太氏

 もちろん、そうは言っても厳しいものはあった。最大の障害は、人の心にある「不安」だったと思う。例えば、開発においてマツダはハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)を後回しにした。しかし、「それで本当に大丈夫か?」という不安である。また、新技術である「SKYACTIV Technology」ではガソリンエンジンやディーゼルエンジン、トランスミッションや車体も足回り部品も全てゼロベースで作り変えた。しかし、「そんなことがマツダの体力でできるのか?」というのが、もう1つの不安だった。不安を集約すれば、これら2つだと思う。

 つまり、1つは目指していることが本当に正しいのかという不安。もう1つは、目指している道は正しいとしても、自分たちに力があるのかという不安だ。どちらも計画が頓挫するのではないかという不安である。こうした不安を持ちながら、高いモチベーションを保つのは困難だ。開発中はもちろん、SKYACTIV Technologyの量産を1年半後に控えた2010年の時点でも、社内に不安の声はあった。この不安を払拭するために、私は開発の全幹部を集めて次のようにスピーチした。

 「経営者の役割は、社員に夢と希望を与え、自信と情熱と誇りを持って仕事をしてもらえるようにすることだ。この点について、私たちは十分に役割を果たせていないのではないかと危惧している。多くの人からこの方針は正しいのか、本当にできるのかという不安の声を聞く。だが、それは裏を返せば、『サステナブルZoom-Zoom宣言』や『ものづくり革新』を本当に理解し、自信を持ってその概念通りに仕事を進めてもらっているのかという私たち経営者の不安になる。今日をその双方の不安を取り除くきっかけにしたい」──と。