戦後、日本の製造業は品質を重視する経営を推進し、高いグローバル競争力を実現して飛躍してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを支えてきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。日科技連では「顧客価値の創造活動と品質経営力のさらなる強化」をテーマに、「第105回 品質管理シンポジウム」(2017年11月30~12月2日)を開催する。日経テクノロジーオンラインは、同シンポジウムの開催に先立ち、登壇者のインタビュー記事を連載する。今回はトヨタ自動車 専務役員 Chief Branding Officerの福市得雄氏のインタビュー(上)をお届けする。(聞き手は中山 力)

福市得雄(ふくいち・とくお)
福市得雄(ふくいち・とくお)
1974年 4月、トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)入社。1999年1月にトヨタ自動車第3デザイン部部長、2003年1月に同社デザイン統括部部長。2004年6月からトヨタ ヨーロッパ デザイン ディベロップメント出向、2008年6月から関東自動車工業出向を経て、2011年 1月にトヨタ自動車常務役員、2013年4月に同社専務役員に就任する。常務役員就任以降、同社デザイン本部本部長、Lexus International Presidentを歴任し、2016年4月からは同社先進技術開発カンパニー先行デザイン担当、2017年4月からは同社Chief Branding Officerを務める。(写真:早川俊昭)

――「品質」と「ブランド」の関係について、どのようにお考えですか。

福市:「壊れない」「長持ちする」といった意味合いで使われる「品質」は、数値化しやすい場合が多いですね。ですから、出荷した製品の品質がきちんと管理されているかどうか、といった形で議論されることになります。

 「ブランド」はこのような品質とは違うと思っています。ブランドという言葉は、元々は牛の焼き印から生まれたそうです。牧場を経営している人が、他の牧場の牛と混同されては困るので、自分が育てた牛に自分の家名などの焼き印を押した。それをブランドと言い始めたと聞いています。

 つまり、自分たちが育てた牛の品質を顧客に対して保証することを目的にスタートしたわけです。品質を保証することによって、長い時間をかけて顧客との間に信頼関係が築かれ、その信頼がブランドになっていくのです。

 トヨタのクルマにしてもレクサスのクルマにしても、お客様は長持ちする、壊れないという最低限度の品質に期待します。しかし、その期待に応えるだけではブランド力を高めることはできません。性能やデザインを含めた付加価値について、期待を裏切らないどころか、常に期待を超える商品を出し続けることが、信頼に結びつくのです。

 1つの商品だけでは、ブランドに結びつくような信頼はなかなか得られません。もちろん1つの商品で信頼を大幅に高められる場合もあるでしょう。しかし、次に出した商品でも同じような信頼を得られるとは限りません。やはり、次の商品についての無条件の信頼は、積み重ねることでしか得られないと思います。