戦後、日本の製造業は品質を重視する経営を推進し、高いグローバル競争力を実現して飛躍してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを支えてきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。日科技連では「顧客価値の創造活動と品質経営力のさらなる強化」をテーマに、「第105回 品質管理シンポジウム」(2017年11月30~12月2日)を開催する。日経テクノロジーオンラインは、同シンポジウムの開催に先立ち、登壇者のインタビュー記事を連載する。今回はコマツ代表取締役社長(兼)CEOの大橋徹二氏のインタビュー(上)をお届けする。(聞き手は吉田 勝、中山 力)
コマツは、1960年の初めから力を入れてきた品質管理で生き残ってきました。海外の大手建機メーカーが日本に進出してきた時には、品質のレベルや会社の規模から考えてコマツは潰れるんじゃないかと言われましたが、TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)を導入して愚直かつ徹底的に品質管理することで生き残った。ですから、品質管理やTQMは我々のDNAだと思っています。
市場はここ10年で激変した
建機は、1990年代初めは日米欧の市場が世界市場の8割を占めていましたが、10年ぐらい前に新興国市場が爆発的に大きくなり、リーマンショック直後は7割に達しました。そうなるとプレーヤーもメンバー変化し、求められているものも大きく変わってきました。
日米欧の大手メーカーは品質や信頼性を重視し、ユーザーも品質や信頼性と価格とのバランスをしっかり見て買ってくれていました。ものが良ければそれなりの対価を払う。だから、我々は品質のいいもの、信頼性のいいものをずっと造り続けてきたわけです。
しかし、新興国市場ではその価格と価値のバランスがなかなかとれていません。どんどん低価格が進む一方で、いいものが欲しいと言います。安売りで勝負する新しいプレーヤーもどんどん出てきて、品質とか信頼性は置き去りにされた商品を出す新興国メーカーも少なくありません。実際、新興国では価格だけで判断されて競争にもならない状況が増えています。
企業としても品質、信頼性を通じて企業価値を最大化するというのが、コマツの大きな目標であるという考えを掲げてきたわけですが、その競争の軸が変わっていっているんです。そんな中で、品質と信頼性をベースとしたTQM活動を続けているだけで、新しいプレーヤーと競争していけるのか。しかも、そうした新規プレーヤーの技術レベルもだんだん上がってきています。
従って、我々は価格競争力とは別の何か違うプラスαの価値を追求し、それを顧客に認めてもらうようにしなければなりません。顧客がこうなりたいとか、こうしたいとか思ってるものを我々が一緒になって改善していくわけです。
もちろん製品品質の向上は続けます。市場調査し、それに基づいて製品を開発して提供するといったことはこれまでもやってきましたし、それは引き続きやっていきます。しかし、それだけでは数年したら他社から似たような製品が出てきます。それを繰り返していても「ダントツ」の製品やサービスは出てきません。
それだけではなく新しい価値を提案していかなくてはならないのです。そうすれば、たとえ少々値段が高くても、「組織としてコマツと付きあっていこう」となります。
ただし、その何か違う「価値」というのは顧客によってバラバラです。進んだ考え方の顧客もいれば、ものさえ動けばいいという顧客もいて、皆が皆ハイレベルというわけではありません。しかも、A社は価格重視だとか、B社はそうでもないとか、C社は今は価格重視だがいずれ違うステージにいくはずだとか、段階もいろいろです。そういういろんなばらつきのある顧客の中で、我々はどういう提案をして一緒に成長していくかが問われているのです。