戦後、日本の製造業は品質を重視する経営を推進し、高いグローバル競争力を実現して飛躍してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを一貫して支えてきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。日科技連では「第101回 品質管理シンポジウム」(2015年12月3~5日)を「日本の製造業再強化のために品質世界一の確立」をテーマに開催する。日経テクノロジーオンラインは、同シンポジウムの開催に先立ち、シンポジウム登壇者のインタビュー記事を連載する。今回は、アサヒグループホールディングス代表取締役副社長川面克行氏のインタビューをお届けする。(聞き手は吉田 勝、中山 力)

――アサヒグループとしての品質のこだわりはどこにあるでしょうか。また、そのこだわりに向けて何をしてきたでしょうか。

川面克行(かわつら・かつゆき)氏
川面克行(かわつら・かつゆき)氏
アサヒグループホールディングス 代表取締役副社長。1975年、朝日麦酒(現アサヒグループホールディングス)入社。吹田工場副工場長兼技術開発推進室長、酒類研究所長、理事・商品技術開発本部長などを歴任した後、2005年に執行役員に就任。その後、酒類研究開発本部長や研究開発本部長、コーポレート研究開発本部長などを務め、2009年に常務執行役員、2011年に常務取締役兼常務執行役員に就任。2014年から現職。撮影:栗原克己

 人の口に入るものなので、徹底的に安全でなければならないというのが第一義です。特に食品の場合は、安全・安心という最低限のことができてなければやっていけません。市場でお客さまに認めてもらえるようになるには、その安全・安心を確保した上で、そこからさらに突出した”これはいいよね”と思ってもらえる価値のある商品を安定して提供していくことが求められます。

 例えばビール。品質といっても、嗜好品で好き嫌いがはっきりしていますから、お客さまの好みをどれだけ広範囲にカバーできるか、そのカバーできた製品を間違いなく同じ状態で供給しつ続けていけるかということが問われます。

 ただ、時代と共に環境やお客さまの嗜好も変わっていくので、根本の安全・安心部分と、嗜好のように少しずつ変わる輪郭を、お客さまに合わせながら進化させていく作業が必要です。つまり、苦みとかコクといったさまざま品質指標のプロファイルを、概括的に現在の市場の好みに合わせて作り上げ、かつ安定して製造する必要があるのです。これが非常に難しい。間違った方向に変えるとお客さまが離れてしまう。嗜好品ならではの難しさがあります。

――安全・安心を担保するための品質も時代と共にある程度変化してきているのでしょうか。だとすると、具体的にどう変化しているとお考えでしょうか。

 変わってきていますね。例えば、ホップや麦芽。商社を通じて輸入するに当たって、我々は直接海外の農場まで行って品質などをチェックします。これは今も昔も変わりません。しかし、40年前くらいまでは、取り引きが始まってしまえば、品質はどちらかというと商社に任せてきました。