戦後、日本の製造業は品質を重視する経営を推進し、高いグローバル競争力を実現して飛躍してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを一貫して支えてきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。日科技連では、全国の企業・組織が品質(クオリティ)に関する事例発表を行う「クオリティフォーラム」(2016年11月21、22日)を開催する。日経テクノロジーオンラインは、同フォーラムの開催に先立ち、主要セッションの登壇者や、パネル討論のコーディネーターへのインタビュー記事を連載する。今回は、ダイキン工業の中国拠点を率いてきた大金空調(上海)公司 董事長 総経理 泉 茂伸氏のインタビューをお届けする。(聞き手は吉田 勝、中山 力、山崎良兵)

大金空調(上海)公司 董事長 総経理 泉 茂伸氏
[画像のクリックで拡大表示]
大金空調(上海)公司 董事長 総経理 泉 茂伸氏
いずみ・しげのぶ 1983年にダイキン工業入社。電子機器事業部 開発課、電子技術研究所を経て2002年に空調生産本部 デバイス技術グループ主任研究員。2004年に大金電器機械(蘇州)公司 董事長・総経理として中国に赴任。2009年、珠海格力大金機電設備公司 副董事長・総経理を経て、2012年から大金空調(上海)有限公司 董事長・総経理。(写真:栗原克巳)

 私が中国に赴任したのは、2004年11月。パナソニックとの合弁である大金電器機械(蘇州)公司(後に合弁解消)に出向したのが最初です。もともとダイキンの設計部門で、グラフィック・ディスプレーの設計を担当していましたが、その後、研究所から空調生産本部住宅空調設計部で仕事をした後、蘇州に赴いたのです。その後、中国にかれこれ12年います。

 2009年に中国の珠海格力電器公司(以下、格力電器)との合弁である珠海格力大金機電設備公司(以下、格力大金)に移りました。ルームエアコン用圧縮機とインバータ制御用プリント回路基板(PCB)の製造を行う会社です。そこでは土地の整備から工場建築まで幅広く手掛けました。それまでダイキンでPCBを製造していたのは日本のダイキン電子だけで、海外では地元の協力会社にお願いしていましたが、そのときダイキンで初めて海外でPCB製造を手掛けました。それが立ち上がった後の2012年6月に上海に移動し現在に至っている。

日本と違う面も同じ面も

 私がダイキン工業に入社して草津工場に配属されたは日本におけるQCサークル活動の全盛期で、どこの企業も取り組んでいました。私も草津ではQCサークル委員をやりましたし、中国でもQCサークルをやろうということになりました。

 日本ではQC活動のための残業はせず、就業時間内に“自分のためにやりなさい”といった指導をしているところが多いと思います。ただし、その他は手弁当です。しかし、中国の従業員はそれでは動きません。そもそも、同じアジア圏にあっても中国での労働法や労働に関する習慣は欧米と近い。どんどん転職もするし、ジョブスクリプトがあって、それに沿って働いて、それに見合う給料をもらうという考え方です。従って、ジョブスクリプトに書いていない活動QCには抵抗があります。

 そこで、残業代を払うので残業でやっていいよ、発表会で上位に入賞すれば報奨も出すよ、といったインセンティブを提示しました。すると、みんな必死にやるようになりました。そうして現場の改善が進んで品質が良くなりコストが下がると、彼らも面白くなってくるんですね。次第にみな喜んでやるようになります。このあたりは、アジア人として日本人とも共通するのかもしれません。