日本の製造業は品質を重視する経営で高いグローバル競争力を実現してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを支援してきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。企業・組織が品質に関する事例発表を行う日科技連主催の「クオリティフォーラム」(2016年11月21、22日)に先立ち、日経テクノロジーオンラインはセッションの登壇者などへのインタビュー記事を連載する。今回は「富士ゼロックス深圳における中国現地人材育成の事例」に登壇する富士ゼロックス プロフェッショナル・アドバイザー部 エクゼクティブアドバイザーの岡地俊彦氏のインタビューをお届けする。
──中国における日本企業のものづくりには逆風が吹いています。労働者の賃金は上昇が続いており、潜在的な反日感情を懸念する日本メーカーも少なくありません。中国で従業員のやる気を引き出し、ものづくりを成功させるためには何が必要なのでしょうか。
岡地:私は2008~2014年まで6年間、富士ゼロックスの量産工場である「富士ゼロックス深圳」で総経理(社長に相当)や董事長(会長に相当)を務めました。
私が赴任した2008年は、中国で労働契約法が改正され、労使関係が大きく変化した時期でした。中国政府が労働者を守るために、労働者の権利を擁護する形で法律を整備したのです。当時は細かな部分の法律までは整備されていませんでしたが、180度考え方を変えていました。
例えば、ある従業員が「会社が悪い」と訴えた場合、会社側は自分たちが悪くなかったことを完全に証明しないといけない。それまでの裁判では訴えた人が敗訴した場合は、訴訟費用を100%負担する必要がありましたが、それも変わりました。裁判になると会社が正しく、過失もなかったことも証明する必要があるため、人事労務管理はものすごく難しくなりました。
こうした流れの中で、中国の現地法人のトップになって推進したのが、富士ゼロックスに根付いていた「良い会社」構想を中国で展開することです。「良い会社」とは、経済性の面で「強い」、社会や環境に「やさしい」、働く人にとって「面白い」という要素を兼ね備えた会社です。
働いて面白いとはどういうことでしょうか。欧米のようなモチベーション理論がバックグラウンドにあります。人間は面白くないと本気になって勉強しません。大きな目標や目的だけを示して、具体的なやり方については現場に任せて提案してもらいます。
そうすると現場で働く人たちが、いろいろ工夫して考えるようになります。製造業は工夫したら結果がすぐに出る。テーマは品質でもなんでもいいのです。