日本の製造業は品質を重視する経営で高いグローバル競争力を実現してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを支援してきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。企業・組織が品質に関する事例発表を行う日科技連主催の「クオリティフォーラム」(2016年11月21、22日)に先立ち、日経テクノロジーオンラインはセッションの登壇者などへのインタビュー記事を連載する。今回は「トヨタにおける自工程完結」に登壇する日本科学技術連盟の理事長でトヨタ自動車顧問・技監の佐々木眞一氏のインタビュー(下)をお届けする。(聞き手は山崎良兵、中山力、吉田勝)

(前回はこちら)

──前回は生産現場で進めてきた「自工程完結」をホワイトカラーに適用することで生産性を高める手法についてお聞きしました。しかしホワイトカラーの仕事は工場の業務と違ってあいまいな部分が多いイメージがあります。何かを決断する基準も属人的でなぜそう決まったのかが納得できないことも少なくありません。

佐々木眞一氏
佐々木眞一氏
ささき・しんいち:トヨタ自動車技監/日本科学技術連盟理事長 1970年、北海道大学工学部機械工学科卒業。同年トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社。2001年トヨタ自動車取締役・広瀬工場工場長。2003年同社高岡工場工場長。2005年同社専務取締役。2009年同社取締役副社長。2013年同社相談役・技監。2014年、日本科学技術連盟理事長に就任。撮影:栗原克己

佐々木:かつて私の上司に不思議な方がいました。どういうわけか定時内に決裁書をもっていっても承認してくれないのです。午後10時くらいに「一生懸命考えました」と持っていくとなぜか承認印を押してくれる。1回目は黙って突っ返すが、3回目になると承認してくれる。

 中身がどうかではなくて、その人にとって決済の判断基準がエモーショナルで非論理的なのです。

 かつて「品質に関係するシステムを変えよう」と思って企画書を提出したことがあります。もちろん以前から問題意識を持っていて準備をしていました。やっとみんながその気になって「さあ変えましょう」というタイミングになって企画書を上司に持っていきました。

 するとその上司に叱られました。「大変なことを簡単に1日や2日で作って持ってくるのはいかん。もっとみんなに相談してからしっかりしたものを作ってきなさい」と。実はその上司は私が作った企画書を読んでもいませんでした。

 私はずっと問題意識があっただけでなく、実は関係部署とも連携しており、事前に相談しながら下地を作っていました。だからこそ2日くらいでできる。それでも早すぎると言われる。「読みもしないで言わないでくださいよ」とぼやきたいくらいでした。

 その後、2週間経って、同じものをもう一度持っていったら「よくやった」と褒められて採用が決まりました。