戦後、日本の製造業は品質を重視する経営を推進し、高いグローバル競争力を実現して飛躍してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを支えてきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。日科技連では「品質管理技術に関する深い知識と高い応用力の習得」をねらいに1949年に「品質管理セミナーベーシックコース」を開設し、今日まで67年間にわたり、延べ130回、301クラス、3万4057人の研修生を産業界に送り出してきた。日経テクノロジーオンラインでは、「AI時代における管理技術のあり方を問う」をテーマに、品質管理セミナーベーシックコースの東京幹事長である早稲田大学教授の永田靖氏と、日本品質管理学会会長で統計センター理事長である椿広計氏による対談記事を2回にわたりお届けする。

椿広計 氏と永田靖 氏
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椿広計 氏と永田靖 氏

永田:最近、AI(人工知能)やIoT、ビッグデータなどが注目を集める中、これらを従来の品質管理技術あるいは情報管理システムにどのように組む込むことができるかが課題となっています。統計センターにおられる椿先生からみて、この現状をどのように考えていますか。

椿:ある統計調査を実施した際、こんなことがありました。人間の代わりに、商品の自動分類を計算機に行わせるシステムを開発したところ、約70%はエキスパートが行う分類を再現できたのです。機械に認識が不可能なものは、これまで通りエキスパートに分類を行ってもらうようにしました。しかし、このやり方では生産性がほとんど上がりませんでした。

その理由は、1項目でも計算機がパターン認識できなかったら、エキスパートが原データである世帯情報を全部読み直して、分類をしなおさなければならなかったからです。後工程のエキスパートに対して計算機がどんな情報を渡さなければならないかということを、読み切れていなかったのです。自分たちの作業の70%以上を計算機に任せられるので、仕事の効率と質は良くなると思ったのですが、そのように単純なものではなかったのです。

永田:なるほど。それと似たようなことは、いろいろなところで発生していますね。

椿:これからはAIが大切で、AIを導入すれば付加価値があると世の中では見られていますが、実際にAIの後始末をする人間のことまでは考えられていません。