日本の製造業は品質を重視する経営で高いグローバル競争力を実現してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを支援してきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。企業・組織が品質に関する事例発表を行う日科技連主催の「クオリティフォーラム」(2016年11月21、22日)に先立ち、日経テクノロジーオンラインはセッションの登壇者などへのインタビュー記事を連載する。今回は「自動車会社の品質経営(TQM)実践事例から学ぶ」に登壇するマツダ品質本部副本部長兼品質統括推進部長の神岡隆氏のインタビュー(上)をお届けする。(聞き手は山崎良兵)

──マツダ車は世界で販売を伸ばしており、生産もグローバルで拡大しています。生産が拡大する中で難しくなるのが、品質を維持・向上させることです。マツダでは品質をより高めるために、今、どのような取り組みを進めているのでしょうか。

神岡 隆(かみおか たかし)氏
神岡 隆(かみおか たかし)氏
マツダ 品質本部 副本部長兼品質統括推進部長
1982年マツダ入社。2010年品質本部品質保証部部長。2012年品質本部副本部長兼品質技術部部長等を経て、2016年4月から現職。

神岡 私たちが目指すゴールは、世界中のお客様に同一品質のクルマをお届けることです。日本の工場でも、海外のどの工場でも、同じ品質を保証する必要があります。そのためにグローバルで品質を保証するプロセスと人財(スキル)を等価にすること、またそれを測る基準を同じにするための活動に取り組んでいます。

 マツダでは新型車を市場に出す時の品質基準の考え方を「OK to ship(出荷OK)」から「OK to buy(購入OK)」に変化させました。それは売る側の立場で品質を考えていた事を反省し、お客様の目線に立った品質保証に全社の意識を変えるためです。

 特に2015年からは、工場から出荷する時点の品質はもちろんのこと、お客様の手元での品質向上に力を入れてきています。

  この考えに立ってグローバルでの品質保証プロセスを強化しています。かつては日本で新型車の量産準備を実施して量産を立上げ、一定の準備期間をおき、同じ車種の海外での量産を立ち上げていました。まず日本で品質を磨き、それから海外の工場に品質部門を含む多数の部門から立ち上げメンバーを団体で派遣して、量産をスタートさせていました。

 しかしマツダの海外販売が拡大する中で、拠点の拡大、世界同時の生産立ち上げが求められるようになりました。そのため、日本からの支援も同時期になり、今まで通りの支援は難しくなり、かつお客様の品質に対する要求レベルが年々上がってきていることは言うまでもありません。

 この状況に対応していくには、海外拠点がしっかりと自律化する必要があります。日常の固定業務を現地で確実に回せるだけでなく、変動要素がある新製品にもより自律的に対応できるようになる必要があります。このような考えからグローバルな品質管理の体制を強化しようとしています。