品質機能展開(QFD :quality function deployment)は、開発製品に対する顧客の要求を分析し、これを設計仕様に変換することで高品質な製品を効率的に開発する優れた手法である。製品の企画段階をはじめとして新製品開発のさまざまな段階において活用できる。QFDの提唱から50年強が経過し、これまでに数多くの企業で新製品開発における品質保証を実践する方法論として注目されてきた。日本科学技術連盟でも、QFDの基礎知識や実践方法を習得する「品質機能展開セミナー」や、企業における実践事例を学ぶ「品質機能展開シンポジウム」などを数多く開催している。

 QFDの中で、特に有名な表に品質表がある。QFDの普及段階で品質表は多くの企業で作成されてきたが、目的不在のままに表を作ることが先行されてしまったことを否定できない。いわゆる“流行りもの”に乗るだけでなく、作成した二元表を新製品開発で有効に使うために、QFDに対して再度見直しがされているという現実がある。本稿ではQFDの最近の動向を3回に分けて紹介する。

 QFDは言語データを取り扱う性格上、実務で適用する際に難しさを伴います。筆者が過去に経験したケースから、その難しさを整理すると、以下の3つになります。

 第1に、QFDを適用する際に「この二元表を必ず作成すべし」というルールが存在しないことです。例えば、品質表はQFDを進める上で軸となる表ですが、品質表を必ず作らなければいけないというルールはありません。このことを理解しないまま、“何はともあれ品質表”という理由から二元表を作成すると、表を作ることが目的となってしまいます。作成した表から何をしたいのかという最も重要な部分が消えてしまい、本末転倒となります。

 第2に、QFDに取り組む際の目的に応じ、作成すべき二元表を自分で考える必要がある点です。QFDに関する文献を参考にすれば、さまざまな企業における適用事例を見ることができますが、これを真似して二元表を作成しても役に立つ保証はありません。他社の事例はあくまでも他社での最適解であって自社の最適解にはなりません。

 第3に、QFDで情報を整理した結果から、今までにない画期的なアイデアや問題に対する解決策が提示されるわけではないことが挙げられます。情報を整理しただけで問題に対する解決策が自動的に提示されるのであれば苦労はありませんが、残念ながらそのような道具はどこにもありません。

 品質管理で用いられる統計的方法はデータを入力すれば、所定の演算に従って定量的な解析結果を示してくれます。例えば分散分析法では、解析の結果から統計的に有意となる因子が示されます。これに対し、QFDは言語データを扱うので、定量的なアウトプットが示されるわけではありません。従って、QFDを過信するあまり、思った以上の成果をあげられなかったという感想を耳にすることがあります。

 これら3つから分かることは、QFDの適用場面では何のためにQFDに取り組むのか、あるいはQFDでどのような情報を整理したいのかを自ら考える姿勢が大いに求められるということです。QFDでは言語データを取り扱うがゆえに、適用範囲と方法の自由度が非常に広くなります。従って、QFDをうまく使いこなすためには、それなりの訓練を必要とします。