戦後、日本の製造業は品質を重視する経営を推進し、高いグローバル競争力を実現して飛躍してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを支えてきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。日科技連では「変化に対応できる、変化を生み出せる組織能力の獲得」をテーマに、「第104回 品質管理シンポジウム」(2017年6月1~3日)を開催した。日経テクノロジーオンラインは、同シンポジウムの開催を機に、登壇者のインタビュー記事を連載する。今回はキャタラー代表取締役社長砂川博明氏のインタビューをお届けする。(聞き手は中山 力)

砂川博明(すなかわ・ひろあき)
[画像のクリックで拡大表示]
砂川博明(すなかわ・ひろあき)
1980年4月、トヨタ自動車工業入社。1992年1月、TMUK(トヨタモーターマニュファクチャリングUK)出向。2003年1月にトヨタ自動車の海外カスタマーサービス技術部部長、2005年1月に米国自動車販売(TMS)副社長、2008年1月にトヨタ自動車の品質保証部部長、2010年7月に同社お客様品質部部長などを経て、2012年6月から現職。

砂川:キャタラーでは、2015年にデミング賞を受賞しました。品質管理やQCサークルといった取り組みは以前から行っていましたが、2012年に私が着任し、デミング賞を目指すと決めたころからTQM活動が本格化しました。

 着任当時、市場クレームは創業以来ゼロ、また、納入不良もゼロというのが何年も続いてきた会社でした。しかし、こういう状況もあり、どこか油断しているところがあったのではと感じました。「検査で不良品を出さない」「お客様には納めない」という品質管理ではなく、自工程完結の考え方を強化して、工程内不良も減らしていかなくてはなりません。スピード感を持ってそういう活動を実施するには、イベントとしてやった方がいいと考えてデミング賞に挑戦したのです。

 最初は、デミング賞を取りに行くぞと言っても冗談だと思われていたようです。「何でやらなくてはならないのか」と腹落ちしない人もいました。そこで私はこういう風に説明したのです。

 「キャタラーはいろいろなところから表彰され、品質は良いという評判です。しかし、我々の製品である触媒は法規部品で保証期間が長い。10年経ってからリコールを起こせば、触媒だけでなく排気管も造ってお客様に届けなくてはなりません。それは不可能に近いことです。ですから、今までに品質問題は起きていないが、これからも絶対に起きないようにしないといけません。どうやったら絶対に起きないと自信を持って言えるのかを自問自答してほしい」と。

 工場の中では日々、設備の故障、赤チン災害、材料の間違い、部品の廃棄など、さまざまな問題が起こっています。検査によって不良品が社外に流出することはありませんが、これらの問題が起きないようにしなくてはなりません。同じことが何回も起きているようでは、いつか会社がつぶれるぞと私は言いました。

 私はトヨタの品質保証部にいたので、さまざまな品質問題を経験しています。品質問題への対応には莫大な労力がかかり、お客様の信頼を回復するには長い時間がかかります。この会社ではそういう経験をさせたくないという強い思いがありました。その思いがみんなに伝わり、全員参加で比較的短期間でデミング賞を受賞することができました。

―――具体的にはどのような活動をしたのでしょうか。

砂川:まず、大部屋活動をやりました。デミング賞の受賞までに何をやるべきかのスケジュールを立て、2週間に1回、進捗状況を確認したのです。