戦後、日本の製造業は品質を重視する経営を推進し、高いグローバル競争力を実現して飛躍してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを一貫して支えてきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。日科技連では「第102回 品質管理シンポジウム」(2015年6月2~4日)を「感動と安心の品質創造と品質保証」をテーマに開催する。日経テクノロジーオンラインは、同シンポジウムの開催に先立ち、シンポジウム登壇者のインタビュー記事を連載する。今回は味の素の常務執行役員でイノベーション研究所長の加藤敏久氏のインタビューをお届けする。(聞き手は山崎良兵、中山力)
──味の素といえば、さまざまな料理に使われる、うま味調味料の「味の素」で知られています。
加藤氏 1908年に東京帝国大学(現東京大学)教授だった池田菊苗氏が昆布のうま味成分はグルタミン酸ナトリウムであることを発見しました。これを味の素の創業者である鈴木三郎助氏が工業的に生産することに成功しました。
こうして誕生したのがうま味調味料の味の素で、その意味ではアカデミアと実業界が一緒になったオープンイノベーションのはしりと言えるものです。現在、味の素は世界の130カ国で商品を販売しており、26の国と地域に拠点があります。
──料理がおいしくなる「魔法の粉」ともてはやされる一方、原料がよくわからないと心配する人がかつては多かったそうですね。
加藤氏 今となっては信じられないかもしれませんが、発売当初は「ヘビを原料にしている」といったうわさが広まって、当時の社長が新聞広告を出して否定したり、工場見学を実施しましたが、うわさは収まりませんでした。
当時の味の素は小麦などのグルテンを加水分解することによって生産していました。1923年の関東大震災の後に工場から原料の小麦粉を大量に被災者に提供したことで、味の素の原料が小麦粉という理解が広まり、広く普及するようになりました。