戦後、日本の製造業は品質を重視する経営を推進し、高いグローバル競争力を実現して飛躍してきた。こうした日本の品質関連の取り組みを支えてきたのが「デミング賞」で知られる日本科学技術連盟(以下、日科技連)だ。日科技連では「変化に対応できる、変化を生み出せる組織能力の獲得」をテーマに、「第104回 品質管理シンポジウム」(2017年6月1~3日)を開催する。日経テクノロジーオンラインは、同シンポジウムの開催に先立ち、登壇者のインタビュー記事を連載する。今回は富士ゼロックス 代表取締役会長の山本忠人氏のインタビュー(下)をお届けする。(聞き手は吉田 勝、中山 力)

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山本忠人(やまもと・ただひと)
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山本忠人(やまもと・ただひと)
1945年生まれ。神奈川県出身。1968年に山梨大学工学部を卒業後、富士ゼロックスに入社。取締役(就任1994年)や常務執行役員(同1996年)、専務執行役員(同2002年)などを経て、2007年に同社としては初となる技術系出身の代表取締役社長に就任。翌2008年に「複写機卒業宣言」をし、ソリューションやサービスの提供にも注力する。2015年より代表取締役会長。

 開発部門や生産部門でのTQM(トータル・クオリティー・マネジメント)も「言行一致」というフォーラムに統合しました。製造現場には、依然として品質の問題もあれば、原価の問題もあれば、在庫の問題もある。これらを言行一致運動の中でやっているのです。

 実際、いろいろないい事例が出てきています。例えば営業の生産性。以前、調べてみたら、当社の営業は、お客様とのコンタクト時間の割合が3割に達していませんでした。じゃあ、あとの時間は何をやっているかというと、大半は社内で提案書を作るといったことにとられているんですね。

 サボっているわけではなく、一生懸命仕事をしていてそうなっている。さらに調べると提案書の7割ぐらいは、標準的なもので間に合う。それなら、なぜみんなで共通のものを作っておかないのかと。つまり、標準提案書というひな形を用意しておいて、最後は担当営業が仕上げるという形にしたんです。

 例えば、提案書の中には、今の社会の動きであるとか、競合他社の動きであるとかを盛り込んでいくんですが、以前は担当営業がそういう情報をあちこちからかき集めた上で、いろいろな形の、しかもいろいろなフォーマットで、いろいろな提案書を作っていた。しかし、社内にはそういう情報を把握している部署があるんですから、そこが埋めてやればいいわけです。

営業が1.8倍に増えたようなもの

 そうして営業の工程を標準化すると、どの営業がどこまで進んでいるかという「見える化」ができる。マネージャーが自分の部下の進捗を全部把握できるだけではなく、直属のマネージャー以外の人もそれを見られる。全部クラウドにありますから。そうすれば、生産部門も、例えば「ある種の商談が多いから少し特殊な材料を集めなきゃいけないな」、というような準備ができます。

 営業も生産も開発も、現場で働く人がセンサーです。日々の仕事内容についての情報を上に上げていけば、営業や生産、開発の現場で何が起きているか分かりますよね。今まで人海戦術で集めていたような、営業が何を何台必要としているかと言った情報がIT化できるようになるわけです。すると、浮いた工数をお客様との時間に充てられる。実際営業部門では、それまで30%を切っていたお客様とのコンタクト時間を50%以上にできました。コンタクト量が1.8倍くらいになった。これは、営業が1.8倍に増えたようなもの営業が1.8倍に増えたようなものです。

 言行一致の徹底という方針を出したのは、2008年頃です。開発や生産はこの中でTQMを進めています。ただ、一般にTQMがボトムアップ型の発想に基づいているのに対して、言行一致フォーラムはトップダウン型です。だからこのフォーラムの会議を社長以下でやるんですよ。どの責任者が、“どのくらいの「ムリ/ムダ/ムラ」の排除に取り組むか”ということを報告し、それをブレークダウンして各マネージャーが責任を持って遂行する。マネージャーは、課題に対していくつかのチームを作り、命題を与えて解決していくわけです。そういうやり方ですから、かなりトップダウンに近い全社TQM活動といえるでしょう。