三浦 対話やワークショップを通じて、越境リーダーシップの先達たちが「どういう逆境を乗り越えていきながら事業を形にしたのか」「それぞれのステップでどういう障害が起きて、それをどう乗り越えているのか」という実践知を抽出し、パターン化しています。

 ただ、まだ、もやもやしながら進めている感じです。一般論として組織の中でどんなに仕組みを整えても、越境リーダーが生まれるとは限りません。企業の中で事業をつくっていく際には周囲から叩かれたりするじゃないですか。それは仕方がない。でも、叩かれることで深く考えるし、批判されることでどうやったら伝わるかに思いを馳せるようになりますよね。

越境リーダーシップカンファレンスの模様(写真:三浦氏提供)
越境リーダーシップカンファレンスの模様(写真:三浦氏提供)
[画像のクリックで拡大表示]

 重要なのは、「そこで足を止めないで前進する希望と勇気を持てるかどうか」です。

 だから、これから越境リーダーを目指す人、または越境の取り組みをしている人が、自分がやっていることを細分化して確認できるようにしていくようにする取り組みが大切だと思うんです。実際の越境リーダーの実践知を体系化して、支える環境・仕組みを構築することだと考えています。

瀬川 確かに、下手にパターン化してしまうと、「それに従ってやればいい」とマニュアル的に考えてしまう人が出てきてしまいますからね。

長岐 「これさえやっておけばいいんだ」と。

瀬川 そう。それが一番嫌だよね。「自分で考える」「自分でやる」ということのキッカケになればいい。そこがポイントなんだけど、「自分事として意識させる」という本来の目的と、ツールとして提供する取り組みのバランスをとるのが大変。ビジネスとして人材教育のサービスを提供していくには、ある程度は汎用化することが大切になってくる。人材育成を手掛ける会社としては悩むところですね。

三浦 ええ。そのギリギリのバランスは難しいところです。

 越境リーダーシップの取り組みを始めるまでは、CSR(企業の社会的責任)の取り組みには興味がなかったんですが、越境リーダーシップによって生まれている事業には、社会的課題を解決するCSR的な取り組みが多いんです。瀬川さんのBOPの取り組みもそうですよね。

 既存のビジネスの枠組みでは、社会的課題の解決を目指す事業は生まれにくい。すぐに収益につながるとは限らないからです。結局、強い思いを持った個人が先にいて、その個人が先導して動いていかないと「CSR」や「社会的課題の解決」といった掛け声だけでは、なかなか動きません。

 一般に企業の人材育成の仕組みは、多くが「会社都合」なんです。「Aという業務を遂行するためにはBの能力が必要だから、君はその能力を身につけなさい」と。通常の業務であれば、その方向性自体は大切なポイントです。

 ただ、新しい価値をつくる際には、実践者を中心にした方法論を考える必要があると思うんです。思いのある個人をどのように発掘して生かしていくか。その仕組みづくりが必要です。だから、越境リーダーシップの取り組みは、これまで実践者の視点で進めてきました。

瀬川 確かにね。それは、「イノベーション」という言葉も同じです。革新的な新事業を立ち上げたいから「イノベーション」という言葉を冠した組織をつくりました。では、何をするのか。結局、その組織の運営を任された人も「何をやればいいんですか」と言っていることが多いんですよね。

長岐 それは、あちこちにあるな〜。ちなみに、越境リーダーシップのイベントを1回開くとどれくらいの参加者が集まるんですか。

三浦 20〜30人くらいでしょうか。

長岐 やはり、ファンというか、求めている人はいるんですね。そういうイベントを何度か開催して組織化できてくると、会社としては売り出したいと考えるんじゃないの?