瀬川 三浦さんは、すごく真面目なグローバルに展開する人材開発コンサルティング企業に勤めています。そこで「越境リーダーシップ」というプロジェクトを進めているんです。「越境」という言葉からも何となく想像できるように、やはり何らかの「境界」を越えるためのお手伝いをしているわけでしょう? だから、「家出の達人」なんだと思うんですよ。ほかにも、面白いことはいろいろやっていそうなんだけれども。
長岐 なるほど。それじゃあ、自己紹介を兼ねて、まずは「何が『越境』なのか」というあたりから聞かせてくださいよ。
三浦 分かりました。越境というのは、「既存の枠組みを越える」という意味で使っています。別に、「どこかの国から亡命する」とか、「県境を越える」とか、そういう話ではありません(笑)。
私が勤めるウィルソン・ラーニングは、米国発祥の会社で事業を50カ国で展開し、50年の歴史があります。会社のメインの職務は、営業の責任者です。
瀬川 企業向けの研修を手掛ける会社ですよね。
三浦 そうです。主に人材開発の研修を手掛けています。
その業務に携わる中で、日本企業と欧米企業の事業の立ち上がり方に違いがあるように思ったんです。例えば、欧米のグローバル企業は、どちらかと言えば「10年後に向けて中期的に新しい事業を構築しよう」というときに先行投資をして組織が戦略的に動くことが多い。
一方、日本企業で新しい事業をつくっている人たちの状況を見ていると、組織が動くよりも先に個人が動いて、それから会社を巻き込んで大きなインパクトにしていくというケースが目立つんです。つまり、個人が起点となって、新しい価値をつくっている。
そうすると必然的に既存の事業や組織の枠組みを越えて動いていって、同じ思いを持つ人々とつながり、必要なリソースを組み合わせてビジネスをしていく形になります。これが「越境」だと思うんです。その動きを可視化していくことで、企業の中で「ある思い」を持った個人を生かした新しい価値の創造につなげられるのではないか。これが、越境リーダーシップを始めようと思ったキッカケです。
瀬川 三浦さん自身も、会社から必要だと言われてプロジェクトを始めたわけではないんだよね。だから、本人が既に「越境」して、会社がやっているメイン事業の範疇からはみ出している。
三浦 私の名刺には「イノベーションセンター」と書いてありますけど、そういう組織は社内にありません。会社の開発部門は米国にあって、日本には新規事業開発のような部署はないんです。新しいことをやるには兼任しかないと。
長岐 でも、名刺に書いてあるということは、会社は容認してくれているんでしょう?