2016年2月、開発No.005「全自動調剤監査システム『ドラッガー』」のプロジェクトは、正式な発足からちょうど1年を迎えようとしていた。メンバーは、発足当初から参加していた包装材料メーカーと自動車部品メーカー、そして途中から加わった調剤薬局チェーン運営企業の計3社である。

 ドラッガーは、調剤薬局において薬剤師が手作業でしている業務を自動化するシステムだ。それによって、薬剤師はルーチンワークから解放され、服薬指導など付加価値の高い業務に多くの時間を割けるようになる。経営者にとっても、患者の満足度向上や業務効率化が期待できる。

 だが、今の業務をそのまま自動化することに意味はない。なぜなら、調剤業界は大きな変革の時を迎えようとしているからだ。これまでは、国が医薬分業を推進したことで、薬剤師数も処方箋枚数も右肩上がりに増えてきた。しかし、今後は高齢化に伴って在宅医療や介護への対応なども求められるようになるため、薬局の業態そのものが大幅に変わる可能性が高いのだ。

 そのため、1年間にわたる議論の内容は、自動化システムの開発にとどまらず、薬局のビジネスモデルや医療の在り方など広い範囲に及んだ。話題が発散しては収束し、収束し ては再び発散する。そんな底知れない議論を、メンバーは粘り強く続けていった。ときには異業種同士で議論することの難しさを感じることもあったが、それをはるかに上回る気付きが得られた1年間だったはずだ。

新たな議論の場も検討

 自動化システムの開発という点では、一定の成果を上げられた。キーワードは、異なる種類の固形薬を1つの袋にまとめる「一包化」だ。高齢化に伴って薬の誤飲を防ぐという観点から、一包化の需要は増えている。介護施設でも、職員が薬を準備する手間を削減したり、薬の取り違えを防いだりするために、調剤薬局に一包化を求めるようになっている。

 本プロジェクトでは、一包化を特に必要とする薬局のビジネスモデルを想定した上で、それに適した機械やパッケージの開発に取り組んだ。この開発を通じて、幾つかの知的財産権も確立できそうな見込みだ。

 1年間という当初の期限を迎えた本プロジェクトは、いったん終結する。ただし、それは単にリアル開発会議から〝巣立つ〞というだけであり、自動化システムの開発についてはメンバー企業とそのパートナーによって継続していくことになる。そう遠くないうちに、新しい商品が世に出てくるだろう。

 一方で、薬局のビジネスモデルや医療の在り方といった大きなテーマについては、十分に議論を尽くせなかったという思いもある。新たな仲間を募集した上で、これらのテーマをとことん議論する場を創設することも検討している。