三反田 最近の新卒社員は、世界一の可能性のある業界に入ってきているという自覚はあるんですか。

 ないでしょう。僕は自宅の近くで起業したんですけど、ある日、僕が車いすを押しているところを、母が自転車で通り過ぎたんです。その後、姉から電話があって「お母さんが泣いてる」って言うんですよ。「息子は、なんて素晴らしい仕事をしているんだ」と感動して泣いているのかと思ったら、「大学院まで行かせたのに、よそ様の車いすを押している姿を見て悲しくなった」って…。

三反田 笑いごとじゃないけど、おかしい(笑)。

 介護の現場は、そういうふうに見られている。「おじいちゃんのおむつを交換させるために大学まで行かせたわけじゃない」という。これは怖いことですよ。介護業界のブランドがそれほど高くなくて、新卒で入ってくるのも、「とりあえず、いつまでも親のすねをかじっていられないから」という人ばかりになっちゃう。

 すごく可能性がある世界なのに、「いや僕、介護でおむつ交換してるんです」と自虐的に言っちゃうからおかしなことになる。本当は「介護は、この先20年で一番すごいビジネスで、誰も今まで経験したことのないビッグウェーブを年齢に関係なく起こすことができるんだ」と言わなければいけませんよね。「きちんとしたノウハウすら確立されてないんだから、学生だろうが、経営者を30年やってようが、みんな同じ条件でスタートしているビジネスなんだぜ」と言う方が面白いじゃないですか。

 社会人経験がなくて、介護しか知らない僕が14年間、経営者をやれていると考えれば、こんなチャンスはない。そういう会話でいいと思うんです。人に雇われるのか、自分たちのノウハウを売るのか、コンサルをするのか、事業を作り出すのか。ゴールも自分で決めることができる。その点、ぶら下がり力が強いとこの業界は厳しいのかもしれないですけど。

三反田 業界の情報発信が弱いということもあるんちゃうんかな。ところで、左さんのところは、今どんな事業が中心ですか。

 起業時は訪問介護が中心でしたが、今はデイサービスを中心にした事業になっています。施設と自宅での訪問介護の中間という位置付けですね。

 最初は年齢に関係なく一律のサービスを提供していたんですが、お客様の年齢によって反応がまったく違うんです。90歳くらいのおじいちゃんはもう感謝しかない感じなんですが、65歳くらいのおじいちゃんだと文句が出てくるんです。「俺は、あんな90歳のじいちゃんと一緒にいるような年じゃねえぞ」と。「じゃあ何しに、デイサービスに来ているんですか?」と聞くと、「俺は風呂に入って帰りたいんだ」という話になって、それで、短い時間のお風呂専門のデイサービスというビジネスを立ち上げました。

三反田 なるほど、確かに親子ほども、もしかすると孫ほども年が離れている人たちがみんな一緒のサービスを受けている状況があるということですね。

 そうなんです。介護の内容を統計で分析してみると、介護保険を使える年齢の人たちの7割はまだ使ってないんです。それは、まだヘルパーさんに家に来てほしくないとか、まだデイサービスに行くほどの歳じゃないとか、そういう感覚だからなんですね。

 逆にそういう元気なアクティブシニアが、風呂場でのヒートショックや、転倒による大腿部骨折などで寝たきりになってしまうリスクはものすごく高くて、そこをしっかりと心配しなければならない事情もある。だから業界全体で、いろいろなサービスの形態を考えていく必要があるんです。例えば、コーヒーが飲めて風呂にも入れるような、施設なのに施設感覚がなくて、3時間お茶飲んで過ごせるようだったら最高だなって。