昨今の起業家はどちらかと言えばスマートな印象があるが、泥臭く地道で、負債に悩まされるケースも実は少なからずある。今回登場するハロハロホームのファウンダー・鈴木廣政氏と、アクトプロの新谷学社長は、2人とも若くして起業し成功を収めたにも関わらず、数億円に上る負債を背負った経験を持つ。そして、2人とも、そこからわずか数年で奇跡とも思えるように返り咲いて、再び大規模な事業を展開している。両者に共通しているのは、そんな多大な苦労を乗り越えてきたことと、その苦労があればこそたどり着いたのであろう「利他」の精神だ。事業ドメインが他社のため、社会のためにあり、そして、社会・時代の要請にも答えようとするものでもある。どんな経験が2人を変えたのか。まずは、てっぺんから真っ逆さまに転落し、這い上がったときに出合ったフィリピンで「改心した」という鈴木氏のジェットコースターのような人生が語られる。
左から三反田氏、新谷氏、鈴木氏(写真:加藤 康)
左から三反田氏、新谷氏、鈴木氏(写真:加藤 康)
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新谷 のっけから質問で恐縮ですが、鈴木さんとはもちろん初対面ですし、何だか不思議な場ですよね。これはどういう基準で人選したんですか?

三反田 鈴木さんはフィリピンでITプラットフォームビジネスを中心に企業連合をつくる事業を展開しているし、新谷さんは店舗の仲介を主な仕事の一つにしているというところでお二人を会わせたら面白いかなーと。でも、さらに共通点があって、そこへ至るまでの経歴がまた2人ともすごいんです。今日はそんなこともお話しいただければと思っています。まずはそれぞれ自己紹介的に今取り組んでいる事業などを教えてください。

鈴木 はい、ハロハロホームの鈴木です。フィリピンに入ったのは12年前ですが、今携わっているハロハロアライアンスの事業立ち上げは約6年前です。

 最初に手掛けたのは、フィリピンで現地向けに展開するウェブ関連の事業でした。ネットショッピングモールの「Hallo2 Mall(ハロハロモール)」、フィリピンの飲食店の情報を集めた「Hallo2(ハロハロタウン)」、求人サイトの「Hallo2 Job(ハロハロジョブ)」の三つがメインのサイトです。これらのサイトを育てていく中でウェブサイトの会員も増えて、そこから旅行業、金融、不動産、レストラン、小売業などさまざまな業種へと展開して今に至ります。

 それぞれの会社は別々に立ち上げて、強固な理念とゆるやかに連携する「アライアンス」という形態で提携しています。このアライアンスに日系企業も参加してもらい、有効に機能する企業連合体をつくっていこうという狙いで事業を展開しています。2015年1月には、経済産業省の「クールジャパン・ビジネスマッチンググランプリ」で大賞をいただきましたが、同10月には「クールジャパンモール」という「日本」をフィーチャーするリアルのショッピングモールをマニラに作りました。オンラインから始まって、今後はオフラインでがんばっていこうという段階ですね。

 今、海外に進出しようとする日本企業を見ると、8割くらいが店舗をオープンすることで燃え尽きちゃんですよ。国も進出のサポートはするけど、商品のサプライヤーを紹介するような現地のサポートはできないわけです。出展する企業はたくさんあるのですが、2〜3年で撤退してしまって、結局残るのは大手企業だけという状況になっています。

 この先、日本国内の市場が縮小していく中で「それじゃあ、日本を支えてきた中小企業はどうなっちゃうの?」というわけで、私たちはフィリピンに進出しようという企業に「どんどん出てきてください、現場は温めておきます。最初から高いパフォーマンスでビジネス展開ができます」という体制をつくっています。

 日本の製品がちゃんと現地に受け入れられ、浸透するようにオール・イン・ワンでサポートする体制を整えるプロジェクトが進行しています。ネット会員から送客することもできますし、ハロハロでもテレビ番組を持って進出企業の商品を紹介することもやっていくつもりです。私自身、ほとんど半分以上をフィリピンで過ごしていますし、社員の98%がフィリピン人で、日本人は2%しかいません。

新谷 日本人2%ですか。

鈴木 はい。400人ほどの従業員のうち、日本人は7、8人程度です。そんな会社が、日本の未来のためというか、日本の未来を支える土壌を耕している。そんなことをやっています。