地方発信が世界基準になり得る。そんな市場が生まれつつある。そこで必要になるのは、本物を見抜く目と、柔軟に対応する力と、逆説的だが、変わらない本質を持つことだ。沖縄のハイビスカスを使ったドリンクで世界的な注目を集めつつあるグランディールの高橋伸次専務と、多彩な事業領域で、アジアを舞台に活躍するダーウィンの武谷勝法社長の対談は、沖縄の話から、グローバルへの対応と、世界で戦うためのマインドセットへと議論は移っていく。地方-世界論は、ほかならぬ、私たち一人ひとりの物語なのだ。
左から、武谷氏、高橋氏(写真:加藤 康)
左から、武谷氏、高橋氏(写真:加藤 康)
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三反田 高橋さんと武谷さんの話を聞いていて、和食の世界進出で、何かポイントがあるような気がしたんですけど、どうでしょう。今、和食が世界に認められて、海外進出のチャンスが来ていると思うんですね。世界に目を向けると、京懐石みたいな日本料理らしいのばかりじゃなくて、めちゃくちゃアレンジされて日本食に見えないのもあったりする。もうちょっといろいろとやりようがあるんじゃないでしょうか。

武谷 僕みたいにアジアのあちこちを行き来している人間からすると、和食のお店を日本人がやっていないということがすごく多くて、しかもそれが、既成概念が取り外されている分、すごく面白くなっていることに驚かされます。そういうお店の方がタブーもないから、ちゃんとローカライズされていて地元に受け入れられているんです。いろいろ仕掛けたり、提案したりするには面白い人たちのように思いましたね。

 日本人を相手に「ハイビスカスのスパークリングを使ってください」と提案したら、「ワインを使うなら内地の山梨産を使うべきでしょ」とか、「王道はこちらでしょう」とか言いそうなんですよね。でも、例えばオーストラリア人とかだと「キレイでいいね、沖縄だしいいじゃないか」と受け入れてくれそうじゃないですか。

 先日もロンドンから来たお客さんが言っていたんですが、日本人がやっていない日本食のお店に入ったら、いきなりゴーンとドラを鳴らして、日本人では絶対思いつかないようなお寿司を出したり、ホスピタリティーがあったりして。でもそれがすごくはやっているんですって。

 そういう人たちを、日本のライバルと見るんじゃなくて、むしろそういう日本に興味を持っている人たちと一緒に何かをつくったほうが面白いんじゃないかという気がします。

編集T 日本企業の海外進出も手がけている武谷さんの目から見て、日本の味をそのまま持っていってそれで通用するものなんですか。

武谷 それは両極があると思います。非常に成功しているケースとローカライズに失敗しているケースと。基本的にアジアでやっているのは、居酒屋というよりは定食屋なんですよ。例えば、マレーシア系の人はあまり酒を飲みませんし。その意味でうまく定食屋として入るとローカライズしやすいということはあります。

 一方で、際立った特徴のある居酒屋業態のお店がそのまま成功するというケースもあります。それはインバウンドで日本に来た人が、これはアジアで受ける、これが国にあったらいいなと持ち帰るようなケースです。例えば名古屋の手羽先屋さん。

 その両極の中で、中途半端なポジションでやっている人たちがやはり一番苦労しています。両極のどちらが正解という話はなく、地域、ブランド、コンテンツによって、その辺は変わってくるんだろうと思います。

 あと、SNSで人気のあるお店が、その国に出たらそのまま人気が出るということも結構あります。逆に言うと、情報が豊富になった分、昔みたいに陰で仕掛けるようなことができなくなった。例えば、昔はラーメン屋を仕掛けようと思ったら、良いお店を地元で提案すればよかった。今は逆に向こうから聞かれるんです。「一蘭は出せないのか」「じゃんがらはつながりないのか」というようにブランドが指定されてくるんですね。

 だから、いろいろな意味で本物感が問われているとも言えるし、ローカライズしていく力も問われているとも思います。