武谷 自分自身の事業は、一歩一歩着実にやっていく、ということに尽きるんですが、東南アジアを行き来していて思うのが、“留まる”ことのリスクなんです。

 例えば、為替でいうと、円高だと海外進出するアドバンテージがありますが、円安だと逆にデメリットがある。しかし、あちこちで仕事をしていると結局“行って来い”なんですよね。こっちがいい時期もあれば、あっちがいい時期もある。でも全体として見ればちゃんとポートフォリオになっている。

 何を言いたいかというと、ボーダーレスになっているということ。ここでやる、この事業をやる、ということの意味がどんどん薄まってきていて、留まってしまうことが一番のリスクになると思うんです。

武谷 勝法(たけや・かつのり)。ダーウィン 代表取締役(写真:加藤 康)
武谷 勝法(たけや・かつのり)。ダーウィン 代表取締役(写真:加藤 康)
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 バブルがあって、失われた20年があって、アベノミクスがあって……その時々で無責任に「その時代がずっと続く」という単純な思いがあったと思うんですね。例えば私はバブル世代ですけど、ずっとバブルが続くような空気感があったし、デフレのときは日本絶対復活できないよという空気があり、今はアベノミクスでやっぱり日本すげえじゃん、みたいな。

 でも、今のこの状況がそのまま続くなんてことは考えにくいわけです。東京オリンピックが終わったらどうなるんだ。国際情勢がこのままなんてことはあり得ない。円安で浮かれて日本が栄華を極めるなんてことは考えられないじゃないですか。

 少子高齢化、空き家の問題など日本にも多くの社会課題があるけど、それをどこかみんな見て見ぬふりして、このままなんとなく、今の空気感で進んでいこうとしている。あまり風呂敷を広げちゃいけませんが、日本の中小企業、若い人たちは、やはり勇気を持って、そこから外へ出なくちゃいけないと思います。いつまでも日本人だけと商売していちゃいけない。

編集T 武谷さんは今、どんな業界、業態に興味をお持ちなんですか。

武谷 今世界的に高齢化が進んでいるので、健康産業や、アンチエイジング的な産業は商売になりやすいと思います。それと、よほど大きな政治的変化がない限りは、インバウンド事業はかなり有望な産業じゃないかと思いますね。

 私もインバウンドで仕掛けている事業もありますし、健康産業で始めようと思っていることがあります。健康産業については、私が思いつくようなことは、だいたいほかの人が既に考えついていることなので、きめ細かいサービスが得意だとか、細かな作り込みがうまいという日本人の特性を活かしたサービス、商品を作れば、世界で通用すると考えています。

三反田 これは今、政府が言っている地方創生の動きともすごく密接に関わっていますよね。地域地域の特色を出して、雇用を生み出して、世界へ打って出ようという。

武谷 そうですね。今は地方から直接アジアのマーケットにアクセスできるので、東京にいるアドバンテージは薄まりつつあります。そういう意味では、これからは地方がポイントになるでしょう。

逆にいえば、マーケットがないからアジアを目指す地方企業が、この先アドバンテージを得ることになるかもしれない。東京にいる企業は、マーケットが目の前にあるから対応が遅れて、後からボディーブローのように効いてくるかもしれません。