閉鎖的とされてきた日本の農業で、新しいことに挑戦するには相当な覚悟がいる。昨今のベンチャーブームとは異なり、農業の世界ではいまだに多様な障壁があるからだ。その障壁を一つひとつ乗り越えて、農業に新たな息吹をもたらそうと動き出した人々がいる。数々の専門家を組織化し、こうした農業に挑戦する人々を支えているのが、日本中小企業経営支援専門家協会(JPBM)である。

 税理士や公認会計士、弁護士、司法書士、社会保険労務士、中企業診断士、不動産鑑定士、弁理士、技術士といった国家資格の9士業の会員で構成されているJPBMは今、農業の6次化を支援する動きを加速させている。自らの出資もいとわず、地域活性化を見据えた支援を進めている。前編では農業生産法人のスワンドリームを紹介した(前編はこちら)。後編ではフルーツファームカトウの取り組みを紹介する。

 福島県福島市に化学肥料を一切使わずに30年間、果樹園を営んできた、知る人ぞ知るこだわりの農園「フルーツファームカトウ」がある。サクランボ、桃、リンゴを栽培する果樹園である。

福島県福島市にあるフルーツファームカトウ。今の時期はサクランボの収穫が終わり、桃の収穫を迎えつつある
福島県福島市にあるフルーツファームカトウ。今の時期はサクランボの収穫が終わり、桃の収穫を迎えつつある
[画像のクリックで拡大表示]

 「父親の跡を継いで30年間、土にこだわり、自分の目の届く範囲の規模で最高の果物を目指してきた」(フルーツファームカトウ 代表取締役の加藤修一氏)と語る。化学肥料を使わずに、魚粉や米ぬか、カニガラ、海藻などを発酵させたぼかし肥料と呼ぶ、有機肥料のみを使用してきた。

 収穫した果物には“吟壌(GINJO)”というブランドを冠している。お酒の吟醸の“醸”ではない。土壌の“壌”を使うほど、土に大きな思い入れがある。

フルーツファームカトウ 代表取締役の加藤修一氏
フルーツファームカトウ 代表取締役の加藤修一氏

 そんな加藤氏にも転機が訪れた。東日本大震災で起きた原発事故である。福島県福島市も放射線量問題が大きくのしかかり、その被害は計り知れなかった。そんな中、加藤氏は2011年の自家販売をあきらめ、自らの手で1年かけて果樹園の表土をすべて削り、除染を実施する。その中で芽生えたのが「果物の栽培だけでは何かあった際に将来はあるのか」という疑問だったという。

 そこで、思いついたのがシードル(リンゴ酒)である。紅玉やゴールデンデリシャス、フジなどリンゴの種類による味の違いは誰よりも分かっている。こう配合にしたら女性好みに、また、こんなふうに配合にしたら食事にも合うお酒になると容易に想像できたという。そこで、2014年に実際に自分のレシピで醸造を委託して試してみたところ、これが見事においしいシードルに仕上がった。

”吟壌”ブランドのリンゴ
”吟壌”ブランドのリンゴ