閉鎖的とされてきた日本の農業で、新しいことに挑戦するには相当な覚悟がいる。昨今のベンチャーブームとは異なり、農業の世界ではいまだに多様な障壁があるからだ。その障壁を一つひとつ乗り越えて、農業に新たな息吹をもたらそうと動き出した人々がいる。数々の専門家を組織化し、こうした農業に挑戦する人々を支えているのが、日本中小企業経営支援専門家協会(JPBM)である。
税理士や公認会計士、弁護士、司法書士、社会保険労務士、中企業診断士、不動産鑑定士、弁理士、技術士といった国家資格の9士業の会員で構成されているJPBMは今、農業の6次化を支援する動きを加速させている。自らの出資もいとわず、地域活性化を見据えた支援を進めている。その象徴的な二つの事例を紹介しながら、異業種連携の真の意味を探る。
今、日本でパプリカの産地として注目を浴びているのが、宮城県である。同県は、リッチフィールドやトヨタ自動車といった企業が大規模な施設園芸を用いてパプリカを栽培している。企業が事業として本格的に取り組んでいるパプリカの施設園芸に、いち農家でありながら名乗りを上げたのが、白鳥智明氏(現・スワンドリーム 代表取締役)である。紆余曲折を経て、パプリカ栽培を実現させた取り組みを見ていこう。
宮城県栗原市は2008年の岩手・宮城内陸地震と2011年の東日本大震災という2度の大きな地震の被害を受けた。そんな中、栗原市にある8.8ha(8万8000m2)の山林を農地にした白鳥氏は、2011年から露地栽培に挑んだものの、毎年のように干ばつや長雨、害虫などの被害に合う。自然相手の難しさを知り、1年を通して安定的な野菜づくりをしたいという夢を抱くようになった。
その夢が実現するきっかけとなったのが、キリンが復興支援のために実施した「キリン絆プロジェクト」である。同プロジェクトが、白鳥氏をはじめ、当時、栗原市職員を早期退職し参加していた三浦菊雄氏(現・スワンドリーム 取締役アドバイザー)と、同市でパプリカの施設園芸を実施していたリッチフィールド 取締役のシャミム・アハメド氏との運命的な出会いを演出したのだ。ここから、シャミム氏がパプリカ栽培の技術指導を買って出てくれたことから夢が実現に向けて動き出す。だが、いち農家では、その事業計画書の作成はおろか、資金調達さえもままならない状況だった。