ひょんころビジネスとは…
新事業に計画は欠かせない。だが、計画通りに進む新事業など皆無。むしろ、ひょんなことから思わぬ方向に転がり、成長するものがほとんどではないか。そんなビジネスを「ひょんころビジネス」と名付けてみた。

 近年、工業製品に使われる素材の高度化や複合化に伴い、素材の性能を見極めるための「熱物性測定」への関心が高まっている。熱物性測定は、原理が分かっているようでいて実は未知の部分が多く、成長の余地が大きい分野である。そんな中、樹脂成形メーカーでありながら、熱物性測定の事業においてユーザーニーズを捉えた事業展開や標準化の取り組みで躍進しているのが、茨城県石岡市に本社を構えるベテルだ。

 もともと医療機器向け樹脂成形品や金型のメーカーである同社が、なぜ熱物性測定事業に参入し、いかにして現在の地位を確立したのか。同事業を手掛ける同社ハドソン研究所所長の関根誠氏に聞いた。(聞き手は高野 敦)

――なぜ樹脂成形のメーカーが熱物性測定に進出したのか。

ベテル ハドソン研究所所長の関根 誠氏
ベテル ハドソン研究所所長の関根 誠氏(写真:加藤 康)
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 樹脂成形品や金型はいわゆる「下請け」のビジネスであり、価格を自社でコントロールできないという悩みがあった。そこで今から15年以上前に現・会長の鈴木英一が中心となって「自分たちの製品を持ちたい」という経営陣の思いから新規開発に取り組んできた。熱物性測定は、そのときに軌道に乗った唯一の事業だった。

 当時、さまざまな新事業を検討している中で、同じ茨城県にある産業技術総合研究所に所属する「熱の専門家」と知り合う機会があった。これが転機となった。そこで熱物性測定に関する多様なニーズを聞くことができたため、「これならやれるかも」と思ったようだ。調査を進めていくと、他の公的研究機関や企業の研究所にも同様のニーズがあることが分かり、本格的に熱物性測定事業への参入を決めた。実際にはここから日の目を見るまで苦難の連続にあることなど、当時は知る由もなかったのだが…。

 測定対象は、自動車のエンジンや電子機器の電池に付ける放熱シートやコーティング膜が多い。熱は製品の効率や寿命などに大きな影響を及ぼすので、新規素材開発で熱物性測定が重要な役割を担っている。

ベテル ハドソン研究所の風景
ベテル ハドソン研究所の風景
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