世界の物理学者たちのお墓巡りをきっかけに、憲法学の視点から各国の墓事情を研究している大石眞教授にインタビューした本企画。前編では、お墓に関する行政の取り組みや法律の各国事情を伺った。話題はやがて、ヨーロッパの国々と日本の宗教観や死生観の違いに発展していく。

政教分離か信教の自由か

山口 いろいろとお墓巡りをしてみると、イギリスにあるリーゼ・マイトナーのお墓とオーストリアにあるエルヴィン・シュレーディンガーのお墓は教会にありました。シュレーディンガーは教会に埋葬してくれという遺言があったので分かりますが、マイトナーの墓はロンドン郊外のブラムレーという街の小さな教会の中にありました。もう朽ち果てていましたけど…。墓地が教会にあるパターンというのは、どういうことなのでしょうか。

イギリスのブラムレーにあるリーゼ・マイトナーの墓
イギリスのブラムレーにあるリーゼ・マイトナーの墓
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オーストリアのアルプバッハにあるエルヴィン・シュレーディンガーの墓
オーストリアのアルプバッハにあるエルヴィン・シュレーディンガーの墓
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大石 イギリスの場合には政教分離という法制度になっていないから、フランスとは事情が違うのでしょうね。

山口 そうか、フランスは政教分離を法律でうたっているのですね。

大石 ええ。だから墓地も教会に任せないで自治体が管理する。そこでだいぶ様子も違うように思います。

山口 逆に教会に埋葬してくれということはないのですか。

大石 パリには(教会として建設された)パンテオンがあって、今は霊廟として立派な人ばかり納まっていますよね。

山口 ああ、そうですね。あれは例外的に。

大石 はい。一般の人はあくまでも市町村長が許可をして市の墓地に埋葬します。