これまで世界の物理学者たちのお墓を訪ねて実感してきたのは、お墓や墓地を巡るヨーロッパ各国の実態や法体系が日本とかなり異なることだ。憲法学の視点から各国の墓事情を研究し、筆者にとっては京都大学大学院総合生存学館の同僚でもある大石眞教授からは、折に触れてその一端を聞いていた。この連載を契機にあらためて大石教授にお話を伺うと、話題は欧米の墓事情から死生観、宗教観の在り方にまで及んだ。その内容を2回に分けて紹介しよう。
3・11で流された死者の尊厳
山口 そもそも大石先生がお墓に興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。
大石 東日本大震災による津波で、多くの人がお寺やお墓がすべて流される被害に遭いました。お寺や神社はコミュニティーの中心で、ヨーロッパでいえば教会です。ボランティアで現地に行った先生方は、人々が墓地を失った時にどれほど惨めな思いになるか実感したようでした。
お墓の問題は誰もが直面する普遍的なものです。ところが、日本の埋葬は火葬の率が非常に高いという点で世界的にも異色です。さらに、墓の扱いに関する墓地埋葬法(墓埋法)も、その運用は地域によってかなり異なります。そこが“法律屋”としては非常に面白いのです。
山口 墓埋法はすごくあいまいに制度設計がなされていて、自治体ごとにガイドラインをつくれるような形式になっているわけですね。
大石 その通りですが、各自治体の裁量以上に重要な問題があります。普通は法律で行政を縛るのですが、墓埋法の場合は規制が大まかで、実際にはほとんど厚生省令で規制しているという点です。結局、法律による行政ではなく、全国津々浦々への通達行政になっているのです。
山口 つまり募埋法と呼んでいるけれども、実は矛盾のない法体系になっていない。
大石 しかも、従来は土葬を前提とした公衆衛生問題が絡むので、墓埋法は戦前からずっと厚生省(現・厚生労働省)の管轄でした。戦後しばらくは半分ぐらいが土葬でしたからまだ実体はあったのですが、今は99.97%が火葬なので法律の裏にあるべき実体がない。火葬だと公衆衛生上の問題はありませんから。