「2017年は世界の半導体サプライチェーンにとって素晴らしい1年となった」――。そう断言しても、そろそろよい時期でしょう。世界の主要な調査会社・機関による半導体市場の成長予測平均値は、2017年の年初時点では5%程度と見込まれていました※1。しかし、いずれの調査会社・機関も7月までに成長予測を上方修正しました。それらを平均すると、2017年の半導体市場は12%成長という素晴らしい状況になっています。

※1 Gartner、VLSI Research、IC Insights、Cowan LRA、WSTSの予測値を平均

 その背景には、2016年7月から2017年7月の間に111%も上昇したDRAMの平均価格(図1)、そしてサーバー用メモリーなどIT関連市場からの旺盛な需要があります。

図1●DRAM平均価格の推移(2016年7月~2017年7月)
図1●DRAM平均価格の推移(2016年7月~2017年7月)
出典:WSTS, IC Insights

 半導体製造装置や材料などのサプライチェーンも、半導体市場の好況を反映して躍進しています。SEMIの予測では、2017年の装置(新品)市場は20%近くの成長を遂げて494億米ドルに達し、2000年のITバブルの年に記録された過去最高額を17年振りに更新する見込みです。材料市場の成長は3%弱にとどまりますが、これは新技術による材料使用料の削減や、金から銅へとパッケージ材料の変化が進んだマイナス分を含んでの成長です。

 こうした活況のなかで、日本の半導体製造サプライチェーンに対する評価は、なぜか低いままです。これには「不当である」と声を大にして言わなければなりません。もちろん、中国を上回る投資が近い将来に見込まれているわけではありません。最先端プロセスについても、台湾や韓国の生産能力を上回るシナリオがあるわけでもありません。しかし、日本の半導体製造サプライチェーンが世界に冠たるものであることを示す、ゆるぎのない事実があります。

事実その1:日本は世界有数の半導体生産能力保有国

 日本は70年代にICの生産を開始した数少ない地域のひとつです。以来、最先端の生産ラインを今日にいたるまで建設してきた結果、現在では300mmウエハーについては世界3位、200mm以下の小口径ウエハーについては世界1位の生産能力を保有しています(図2)。

図2●各地域の半導体前工程生産能力(ウエハー口径別)
図2●各地域の半導体前工程生産能力(ウエハー口径別)
出典:SEMI Fab View、2017年9月

 また、160を上回る前工程ファブが操業をしており(研究開発・試作ラインを除く)、2017年の設備投資額が10億米ドルを上回る半導体メーカー15社の中に東芝、ソニー、ルネサス エレクトロ二クスの3社が入っています。そしてこれらのファブは、世界全体の15%に相当する半導体材料を消費しています(出典:SEMI Fabデータベース、2017)。日本の半導体サプライチェーンにとっては、これらのレガシー資産をいかに活用するかが成長の鍵となります。

事実その2:日本には期待できる最終製品のリーディング企業がいる

 SEMIは半導体が使用される最終製品の今後の柱として、IoT、スマートカー、スマート工場、メドテック(医療機器)の4つを選んでいます。

 当然のことながら、スマートカーは日本が先進国の筆頭といってもよく、トヨタや日産などを頂点とするサプライチェーン全体が、自動運転などスマートカーに向けた研究開発を進めています。また、スマート工場では、その重要製品である産業用ロボットの日本企業シェアが54%(国際ロボット連盟、日本ロボット工業会の2015年データからSEMIが推定)に上ります。こちらも、安川電機やファナックなどを頂点とするサプライチェーンが、世界をリードしています。

 こうした重要なアプリケーションのサプライチェーンが国内に存在するおかげで、日本の半導体産業はそのアプリケーションのニーズを掌握できます。早期からの共同開発なども、海外市場にくらべて有利な環境にあるといえます。