東芝は2015年11月9日、「不適切会計」に関する役員責任調査委員会の調査報告書を公表した(公表のお知らせと調査報告書:PDF)。本報告書は、東芝における新旧役員の法的責任の有無とそれに伴う損害賠償請求の可能性について、弁護士を中心に構成された役員責任調査委員会による調査結果の報告である。

 役員の法的責任と言えば、株主代表訴訟をすぐに思い浮かべるかもしれないが、いきなり株主代表訴訟を提起できるわけではない。株主から役員の提訴請求があった場合は、まずは会社が役員の法的責任を追及することになっている。それから60日経過しても会社が提訴しない場合、株主が自ら提訴できる。これが株主代表訴訟である。

 今回の報告書の位置付けは、役員の法的責任の有無について東芝が判断する材料にすることを目的に、東芝の求めに応じて役員責任調査委員会が調査し、同委員会が東芝に提出したというものである。

過失責任が認められる役員は賠償責任を負う

 役員の法的責任が追及されるのは、会社法に定められている役員の義務に反したときだ。本件で問題となるのは善管注意義務だ。これは面白い法的表現で、「善良な管理者であれば従うべき注意義務」ということである。そこで問われるのは過失責任であり、責任があると認められた場合は会社に与えた損害に対して賠償責任を負うことになる。

 本件においては、「会計基準の遵守義務」「役員の監視・監督義務」「内部統制の構築・運用義務」の3点についての善管注意義務が問題とされている。責任追及の対象となる役員は、指名委員会等設置会社である東芝においては取締役と執行役である。指名委員会等設置会社であるので監査役は存在しない。

 ちなみに、多くの会社で見られる執行役員は「役員」と言われるが、会社法上は役員でも何でもない。会社が任意に付けた役職名に過ぎない。従って、執行役員が会社法上の役員の責任を追及されることはない。