東芝の個人株主が2016年9月20日、同社の会計不祥事を巡ってその会計監査を担当した新日本監査法人に対して、約105億円の損害賠償請求を求める株主代表訴訟を起こした。代理人を務める「株主の権利弁護団」によると、監査法人に対する株主代表訴訟は異例とのことである(2016年9月21日付の日本経済新聞朝刊)。

 今回は株主代表訴訟と、その前提となる役員等の責任について解説する。役員等の責任は、最近関心が高まるコーポレートガバナンス(企業統治)を考える上での基礎知識としても重要である。

現行法が想定していた監査法人への株主代表訴訟

 株主代表訴訟とは、株主が役員等を直接訴えることのできる制度である。この「役員等」の範囲が、まず1つめのポイントだ。

 この「役員等」には、発起人・設立時取締役・設立時監査役・取締役・会計参与・監査役・執行役・会計監査人・清算人が該当する。このうち「会計監査人」というのが、監査法人を意味する会社法用語である。

 株主代表訴訟の対象となる「役員等」の範囲は、2006年5月に施行された現在の会社法によって拡大された。それまでの旧商法においては、この「役員等」に該当するのは取締役・発起人・監査役・執行役・清算人であり、会計監査人は対象外だったのである。会計監査人、すなわち監査法人が株主代表訴訟の対象となったのは現在の会社法からである。

 監査法人が株主代表訴訟の対象とされてからの歴史が浅いため、監査法人に対する訴訟はまだほとんど例がない。そういう意味で今回の件は「異例」なのであり、監査法人が株主代表訴訟で提訴される自体が「特別な例」という意味ではない。現行法は、監査法人が株主代表訴訟の対象となることを最初から想定していたのだ。