想定外で何か良いことがあると、「やはり、悪いことはできない」と言うことがある。照れ隠しもあるだろうが、良いことがあってうれしいという素直な表現である。そして、今まで悪いことをしていなかったからこそ、このような良いことがあるという、ちょっとした自慢話でもある。

 しかしよく考えれば、本当に悪いことをしてはいけないし、ほんの少しでも手抜きをしたり、小賢しい(こざかしい)悪巧みをしたばかりに、後になってせっかくのチャンスを逃すこともあるのだから、恐ろしいことなのだ。

 こんな話があった。

 その会社(部品メーカー)は、今から20年くらい前に倒産の危機があったという。その時、多くの仕入れ先が一斉に離れてしまい、中には、こちらに世話になっているくせに悪口を言う会社もあったとか。しかし、1社だけ無条件にそれまでと同じように取引を続けてくれた会社があり、そのお陰で危機を乗り越えたそうな。

 その部品メーカーの社長はすでに引退したが、後任の社長もその事を覚えていて、何をおいてもその会社には恩がある。だから、どんなに他社の製品が安くとも、ずっとそこから買うことにしていると言うのである。

 この話、それを聞いたその会社の社長は、うれしそうに「やはり悪いことはできないなあ」と言うに違いない。

 当然、悪口を言った会社は「あの会社だけは付き合うな。どんなにいい製品が安くとも、絶対に付き合ってはならぬ」と、出入り禁止になったのは言うまでもない。

 ことほど左様に、悪いことはできないのである。いや、してはいけないし、どんなことがあろうとも、こちらから悪さをしてはいけないのである。

 しかし、ビジネスの世界では、これがかなり難しい。