工場もシェアリングの時代

法政大学デザイン工学部システムデザイン学科教授の西岡靖之氏
法政大学デザイン工学部システムデザイン学科教授の西岡靖之氏
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 初めに、法政大学の西岡氏が「IoT/つながる化」というテーマで講演した。同氏は、IoTに求められる仕組みづくりを目指すフォーラム「IVI(Industrial Value Chain Initiative)」の発起人であり、現在はIVIの理事長を務めている。第4次産業革命では、従来バラバラに存在していた機器やサービスが「つながる」ことで、生産性を高めたり新たな付加価値を生み出したりすることができると考えられている。製造業におけるビッグデータの活用は、最も顕著な例だろう。

 西岡氏によれば、IoTによって現実の物や人がつながり始めると、消費的な行動に対してダイレクトに課金できるようになる。そのことは、従来のインターネットによる電子商取引(eコマース)をはるかにしのぐ影響を製造業のビジネスモデルに及ぼす可能性があると西岡氏は指摘する。例えば、BtoCの領域であれば、冷蔵庫や洗濯機といった家電製品の本体価格が大幅に安くなる代わりに、「1日当たり○○円」「1回の洗濯で△△円」といった新しいビジネスモデルが出てくることも考えられるという。

 BtoBの領域でも大きな変革をもたらす可能性がある。例えば、工場の生産設備をIoTに組み込まれることで、生産設備そのものやそれに付随するノウハウを外部に提供するような新しいサービスを実現できる。「工場には、加工や生産管理などものづくりのノウハウがぎっしりと詰まっている。この『宝の山』を切り出してサービス化するという考え方が重要になる」(西岡氏)。自家用車をタクシーとして活用する配車サービス「Uber(ウーバー)」(米Uber Technologies社)や、自宅をホテルとして活用する宿泊サービス「Airbnb(エアビーアンドビー)」(米Airbnb社)のようなシェアリングエコノミーと同じビジネスモデルが、工場で成立するかもしれないというわけだ。

 さらに、IoTによってお金の流れも逆転する可能性があると西岡氏は指摘する。従来は、大量生産を手掛ける大企業が消費者との接点を持っており、大企業から中小企業に仕事を発注していたことから、お金の流れが「消費者→大企業→中小企業」となっていた。だが、第4次産業革命に伴ってマスカスタマイゼーションの流れが進むと、消費者の多様な要求のすべてを大企業が一手に引き受けることは極めて難しくなる。むしろ、消費者との接点は中小企業が担い、その生産活動を大企業が支えるようになるため、お金の流れが「消費者→中小企業→大企業」という形にシフトするのではないかと同氏は語った。