ものづくりのスマート化を進める上で、乗り越えなければならない課題の1つが「安全」だ。例えば、スマート時代には人とロボットが安全柵で隔てられることなく協業するというコンセプトが提唱されている。既にこうしたコンセプトに基づいたシステムがさまざまな企業が出てきているが、今後は生産性と安全性をさらに高い次元で両立させるための技術が不可欠となる。

明治大学名誉教授の向殿政男氏
明治大学名誉教授の向殿政男氏
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 スマート時代に向けて求められているのは、「止める安全」から「止めない安全」に移行することだ――。そう指摘するのは、機械安全分野における国内の第一人者で明治大学名誉教授の向殿政男氏である。同氏は、2016年2月に大阪/東京で開催されたシンポジウム「IoT/インダストリー4.0時代における次世代もの作り安全に関する日欧戦略的協同」(主催は、EUインスティテュート関西と日本電気制御機器工業会)に登壇し、機械安全の新たな潮流について語った。

 向殿氏によれば、機械安全の歴史は、人の注意力で安全を確保していた時代(Safety 0.0)に始まり、それから機械技術によって安全を確保する時代(Safety 1.0)が長らく続いた。その後も技術の進化に伴い、電気・電子制御やコンピューターを取り入れてきたが、「本質的安全設計で危険源のリスクを低減し、それでも取り除けなかったリスクを安全装置などによって防ぐ」という原則に変わりはない。

 ところが、IoT(モノのインターネット)やIndustrie 4.0(インダストリー4.0)といった形で機械やセンサーがインターネットにつながり出すと、従来のSafety 1.0の考え方だけでは不十分だと向殿氏は言う。そもそも、機械やセンサーをインターネットにつなげるのは、「フレキシブルな生産をしたい」「生産性を高めたい」「人と機械が一緒に作業できるようにしたい」といったことを実現するためである。しかし、Safety 1.0では、人に危害が及ぶのを防ぐために、人を危険源から遠ざけたり(隔離の原則)、人が危険源に近づく際に動作を止めたり(停止の原則)しなければならないので、これらの要求を実現するのが難しかった。従って、スマート時代を迎えるに当たり、Safety 1.0を超越した新たな安全の考え方が必要になるのだ。