シリコンバレーを知らない技術者はいないだろう。シリコンバレーはハイテクノロジーを牽引する「知の集積地」として知られている。シリコンバレーと比較できる、食の「知の集積地」が存在するというと、信じるだろうか。それがあるとすればどこだろうかというと、一極集中と言われる首都圏ではなく、北の大地に恵まれる北海道でもなく、関西だ。京都、大阪、神戸といった京阪神地域には、多彩な食文化が存在しているだけではなく、和食の科学的な研究が盛んに行われて、食ビジネスの開拓も注目されている。今回は、なぜ関西が世界に冠たる「食の知の集積地」として言えるか、その現状と展望について探りたい。

三都三色の京都、大阪、神戸

 関東と関西の両方に住んでいたことがある筆者としては、食文化に限っては首都圏各地はそれほど大きな違いがないと感じている。一方、関西には、京料理の京都、食い倒れの大阪、洋食の神戸とそれぞれの特徴が目立つ。

 1000年以上も都がおかれた京都では、公家文化と周辺の町衆文化が融合し、独自の京都文化を作り上げた。庶民の日々の食事は素朴で簡素なものだが、行事では、京野菜を巧みに使った京料理・精進料理などの洗練された料理が作られる。年間を通じて、祭事・行事が多いことが特長で、「ハレ」と「ケ」の使い分けが、食生活にも浸透していた。都としての特殊性が生んだ食文化だ。

 大阪は水運・鉄道の地の利で食材を含めて全国の物資の集散地となり、その後も商都として繁栄していった。大阪でも農業・食材生産が行われてきたが、むしろ「天下の台所」としての側面が強い。各地の優れた食材が手に入り、食べ物屋、つまり外食店が繁栄し、さまざまな素材をどう料理して食するかの創意工夫が、「食い倒れの街」を作ったと考えられる。いわゆる、消費の中から生まれた食文化だ。

 港町神戸の食文化は豊かな海の幸に恵まれて発達していった。それに加えて、1868年の神戸港の開港で、外国人の街が開かれるとともに、西洋料理、中国料理、洋菓子、パンなどが生産・販売されるようになった。さらに、神戸から日本全国に広まった。このように、神戸の「食」は、豊かな産地と食材、そして異国文化との融合により生まれた。

 関西各地には、日本の食文化の原点ともいえる古くからの食材や伝統料理が今も数多く存在する。同時に、西洋と中国の食文化も取り入れて融合して発展してきた。それは、現在も止まらず、新たな料理も創造され続けている。