前回の記事「ハイテクと料理の出合い、米国から日本へ」では、筆者が2017年8月25日に参加したイベント「Smart Kitchen Summit Japan」の背景と概要を紹介した。筆者は、同イベントの会場で、なぜかお米と炊飯器を時々思い浮かべていた。同イベントのテーマは「食&料理×テクノロジー」。その食&料理xテクノロジーに対して、米国と日本の関心点とアプローチはそれぞれは違うというのが筆者の捉え方である。日本は「田畑」から生まれた食材に着眼している一方、米国は「クラウド」で収集したデータをベースにしていると見られる。今回は、こうした食&料理×テクノロジーにおいて、日本と米国はどう違うのか、日本はどうすべきかといった点と、スマートキッチンの将来について探りたい。

「田畑」に根差した炊飯器

 日本の炊飯器は「戦国時代」に入ったと言っても過言ではない。量販店の調理家電コーナーに行けば、売り場にはさまざまな炊飯器が並んでいる。価格は数千~10数万円。方式もさまざまだ。本コラムの最初の記事も炊飯器に関する内容だった。炊飯器は日本の食文化とものづくりの結晶といえる。

 炊飯器を技術的な視点から捉えると、加熱方式と釜の材料・製造技術が中心となる。加熱方式は、機械式→マイコン式→誘導加熱(IH)方式→圧力IH、スチームIHへ進化してきた。その競争はいったん落ち着きを見せ、現在の競争の主軸は釜に移ってきている。「鉄釜」「銅釜」「本炭釜」「土鍋」「南部鉄器 極め羽釜」など、各メーカーは独自の釜を売り出している。そこには、高度な材料技術と製造技術が求められており、他社が真似しにくい部分と言えるだろう。

 興味深いのは、米の銘柄までを念頭に対応を図る機種が出てきている点。田んぼの「栄養」と農家の栽培技術で作られた米のおいしさを可能な限り忠実に再現しようという試みだ。

 日本では、なぜこれほど多くの炊飯器が開発されたのか--。そこには、米のおいしさをとことん追求したいという日本人の思いが隠されているのだろう。

 先日、筆者は自宅の近所にある家電量販店で実施されていた「炊き比べ実演会」に行った。6社の高級炊飯器で炊いた新潟産のコシヒカリのご飯を食べ比べた。正直、どれがよりおいしいか分からない。甘み、もちもち感、粘り、固さなどの指標があるが、どれも同じくらいと感じられた。主催者側にどんな回答が集まっているかと尋ねると、私と同じ感覚を持っている人が多いようだった。さらに原因を聞くと、使った機種は各社の最上位のもので、それほど差がないのかもしれないという回答だった。そろそろ炊飯器によるおいしさの追求は限界に近づいているのかもしれない。

家電量販店での炊き比べ実演会
家電量販店での炊き比べ実演会
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