1年前、以前行ったことがあったマクドナルドの店が閉鎖になった。その跡地に最近、新しい店ができた。なんと、馴染みの天丼てんや(以下、てんや)だ。てんやは、手頃な値段でおいしい天丼やてんぷらを提供している外食チェーンだ。この2、3年、マクドナルドが店舗をどんどん減らいている一方、てんやは増やし続けており、海外にも進出している。てんやの天丼と天ぷらは、一見、マクドナルドと同じファーストフードだが、よく比べると、マクドナルドとは違って「ファースト和食」だと思う。今回は、その違いから、食文化、人、テクノロジーの関係について探りたい。

マクドナルドから生まれたてんや

 てんやの創立者である岩下善夫名誉会長は、実は当初は日本マクドナルドの創業にも携わっていた。岩下さんはマクドナルドのオペレーションの仕組みを知り、マクドナルドの近代的なフードシステムの力と経営の仕組みに感銘する。一方で、提供されるハンバーガーやフライポテトといったアメリカ的なフードには違和感を持っていたという。やがて、マクドナルド的な経営システムを使い、おいしく健康な和食を提供したいという思いが募り、てんやの創業に至ったという。そして、さまざまな苦労の末に誕生したのが、たった500円でおいしい天丼と天ぷらが楽しめるてんやだった。

 天ぷらは、今や和食を代表する料理として多くの人に愛されている。油で揚げるのは、単に食材に火を通すためだけでない。生でも食べられる新鮮な食材を加熱することで、水分を飛ばしてうま味を凝縮させるという目的もある。また、サックリと揚がった衣の食感も素材にはない大きな魅力だ。天ぷらは揚げる技術と食材が命。一見簡単に作れそうだが、熟練の職人でないとうまくできない。そのためか、てんぷらには専門店が少なくないが当時は高価な店が大半で、手軽に食べられるてんぷら専門店は少なかった。しかも、一般的な和食よりも多くの油が使われるので、家庭では簡単にできない。店で食べたいというニーズは確実に存在した。岩下さんは数年間をかけて、てんやを創業した。

 てんや1号店の誕生は1989年(平成元年)9月だった。場所は東京駅の八重洲口から数分の八重洲地下街だ。てんやでは、現在から2020年末までに約1.7倍の300店舗に増やす方針だ。東南アジアにも現在は10数店舗を展開しているが、2020年までに100店舗まで拡大する目標という。

天丼てんや1号店(東京駅八重洲地下街)の中にある小さいな看板
天丼てんや1号店(東京駅八重洲地下街)の中にある小さいな看板
[画像のクリックで拡大表示]