韓国の医療政策を担当する保健福祉部(部は日本の省に当たる)の2017年度予算案が決定した。前年比3.3%増額した57兆7000億ウォン(約5.5兆円)で、同年度の5大課題として「バイオヘルス新産業育成」「低出産・高齢化社会対策」「一人ひとりに合わせた福祉強化」「感染症対応力強化」「公共医療拡充・医療伝達体制整備」を指定した。

 5大課題のうち、特に注目を集めているのは、「医療伝達体制整備」という名称で表現された遠隔医療である。遠隔医療は、遠隔地にいる医療需要者と医療供給者の間で情報通信技術を利用し、医療行為や医療サービスを提供すること。韓国では遠隔診療から遠隔術後ケア、遠隔相談、遠隔モニタリングまでのすべてを含む用語として「遠隔医療」という言葉が使われる。

 韓国の医療法では現在、医師と医師の間をつなぐ遠隔医療は認められている。例えば、都市部にある病院と、山間地域・離島や軍部隊の中にある保健所をつなぐようなタイプで、こうした遠隔医療は既に導入済みだ。一方、医師と患者をつなぐ遠隔医療(遠隔診療)は「通信トラブルが発生した時の責任を誰がとるのか」「モニター越しで患者の状態を正確に把握できるはずがない」といった声をあげる医師会の反対により、まだ導入されていない。

 韓国の国会では、2016年夏から再び医療法改定についての議論が開始。保健福祉部は2017年から、遠隔診療の実現を目指した予算もつけた。医師会は反対し続けているものの、保健福祉部の意志も固いようだ。

 国会で議論されている改定案の主な内容は、医療機関の代表が自治体に届け出をする条件のもと、軽症の再診患者については、遠隔診療を行えるようにするというものである。高血圧や糖尿病などの慢性疾患患者、山間地域・離島居住者、寝たきりの高齢者や障がい者が主な対象で、医院以上の医療機関に限って遠隔診療を提供できるという形だ。

 ただし、遠隔診療しか行わない医療機関は許されない。遠隔診療を活用しつつ、診断と処方を行うためには、並行して定期的な対面診療を行うことが条件となる。

 改定案には医師の免責範囲も盛り込まれた。大きく3つのケースに関しては、遠隔診療を用いたことによる医療事故が発生しても、医師の責任は問わないことにした。患者が医師の指示に従わなかったことが明白である場合、患者側に設置した装備の欠陥による事故の場合、そして医師の過失を認める明白な根拠がない場合である。