スーパー銭湯で思う、そろそろ「ハピネス」の時代へ

2017/12/07 17:00
小谷 卓也=日経デジタルヘルス
写真はイメージ。本文と直接は関係ありません

 ふぅー、いい湯だなぁ。

 帰宅後、自宅から冬の夜道を45分ほどドライブしてたどり着いたのは、お気に入りのスーパー銭湯。頻繁に訪れるときは、それこそ週1ペースのこともあるが、今回は2~3カ月振り。

 湯船に浸かり、体の力を抜いていると、「幸せ」という言葉が無性に頭の中を駆け巡り始めた――。そういえば10月に、日立製作所が、スマホに内蔵されている加速度センサーを活用して、組織の「幸福感」を計測する技術を発表した。

 筆者は7年前、2010年に日立製作所の矢野和男氏を初めて取材して、その原形となる技術について話を聞いた(関連記事)。矢野氏は当時の取材時から「幸福度」というワードを繰り返していた覚えが筆者にはある。しかし、当時の筆者には、その意味するところが十分理解できていなかった記憶も同時に残っている。

 なんで湯船でこんな回想が始まったのだろうか。そうそう、最近、取材などでお世話になった、あるベンチャー。同社の企業理念は、「私たちに関わるすべての人の人生を、ハッピーにする」なのだという。この理念が妙に心に刺さっていたことがキッカケなのかもしれない。

 そういえば、2012年に設立されたドコモ・ヘルスケアの初代社長だった竹林一氏のことも思い出した。同氏とは何度かお話しする機会に恵まれたが、ことあるたびに「ハピネス」という言葉を繰り返していた記憶が筆者には強く残っている(関連記事)

 竹林氏が強調していたのは、「ハピネス」と「リスク」が両端にあって、「ウエルネス(健康)」はその真ん中にあるというもの。製造業で言うところのいわゆる「スマイルカーブ」と同じく、両端が儲かって(付加価値が高く)、真ん中は儲からない(付加価値が低い)という話である。

 リスクといえば、10月に開催した「デジタルヘルスDAYS 2017」(主催:日経BP社、協力:日経デジタルヘルス)のことも頭に浮かんできた。主催者企画では、筆者がモデレーターを務め、「保険業界はデジタルヘルスに“経済性”をもたらすか」と題するパネル討論を開催した。生命保険会社が加入者との接点の形を変えようとする動きが加速しつつある今、こうした動きがデジタルヘルス分野の経済性につながるのかを探る企画である(関連記事)

 このパネル討論で印象に残ったのは、アクサ生命保険の松田貴夫氏が強調した「保険会社がリスク管理のエキスパートであり続けられるかが今後の課題」というコメントだ。「保険×デジタルヘルス」と経済性の議論がつながってくるのは、「リスク」という付加価値の高い領域を保険会社がしっかり確保しているからに他ならないことを、そのコメントが再認識させてくれた。

 長い入浴に頭も少しのぼせはじめ、回想というより、妄想が始まった。経済産業省が始めた「健康経営銘柄」。反響が大きく、今や、就職・投資・取引の判断材料として“ブランド化”しつつあるという話もある(関連記事)。もしこれが、「リスク経営銘柄」となれば強烈に“逆ブランド化”するはずだ。では、いっそのこと対極にある「ハピネス経営銘柄」としたらどうなのだろうか…。健康経営もしかりである。

 社員の健康維持に配慮した経営というのは、これまではできていなかったのかもしれないが、それ自体はごく“当たり前”の基盤であって、決して目的ではない。一歩先にある付加価値、つまり健康という基盤の上で会社・個人が成し遂げたいことは何なのか。物事の焦点を健康ではなく、そちら側にずらす時代に来ているのかもしれない、とも思う。もっとも、経営だけの話ではなく、BtoB/BtoCのサービスやプロダクトもそうだろう。

 3月に「ヘルスケアサービスがうまくいかないワケ」という記事を本サイトに掲載した。この記事見出しの答えとして、ソニーコンピュータサイエンス研究所の桜田一洋氏が指摘していたのは、多くのヘルスケアサービスが一人ひとりの違い(幸せなどに対する価値観)を考慮せず、“健康”という標準解にもっていこうとしている現状である。

 前述の日立製作所の例のように、いよいよ「幸福感」を計測するなんていう技術が、スマホに実装できるような時代になってきた。ジンズのメガネ型デバイス「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」では、利用者のまばたきの回数や強さなどから「集中」の度合いを測定することができるという。同社はつい先日、この「集中」を追求するワーキングスペースをオープンしたばかり(関連記事)。実は、集中は「幸福」と密接につながっているという話もある。つまり、これも幸せを測れる技術と言えるのかもしれない。

 ただし、「幸福」という指標は「健康」よりも極めて複雑で多様だ。何を幸せだと感じるかは千差万別、単純な物差しでは測れない。だからこそ今後、さまざまなチャレンジの余地が残されているテーマだと考えることもできる。

 回想や妄想に集中しすぎて、さすがにのぼせたので湯船から出た。『日経デジタルヘルス年鑑2018』(12月11日発行、全552ページ)の編集作業をすべて終え、久しぶりになじみのスーパー銭湯を満喫したこの時間は、とても幸せだった。