ITを活用するなどして医療への新たなソリューション提供を目指すベンチャー企業が目立ち始めている。最近では、医師自らが起業するケースも多くなってきた。このほどニコチン依存症治療アプリ「CureApp 禁煙」の治験を始めたキュア・アップも、内科医が起業したベンチャー企業である(関連記事)

 医師が自ら起業するかは別にして、医療関連分野のベンチャー企業が成功するためには、医師などの医療従事者がこれまで培ってきた知見やネットワークが必要だとの声が多い。日経デジタルヘルスが2017年2月に開催した「デジタルヘルスベンチャー祭り」に登壇した、経済産業省商務情報政策局ヘルスケア産業課課長補佐(当時)の富原早夏氏は次のように指摘した(関連記事)。「ベンチャー企業育成などのため、我々の課では様々なサービスモデル実証の補助を手掛けてきたが、検証の結果、地域の医療従事者と密接に連携して取り組んでいる企業が活躍していることが分かった」。

 では実際、医師はどのような意識を持っているのか。臨床医向けサイト「日経メディカルOnline」の医師会員を対象に、起業についての調査を行った(調査概要:日経メディカルOnline医師会員を対象にウェブアンケートを実施。期間は2017年10月27日~11月1日。有効回答者数は3076人)

 「起業したいと考えたことがあるか?」を尋ねたところ、11.8%(364人)が「ある」と答えた(図1、「既に起業したことがある」との回答も「ある」に含めた)。

図1 起業したいと考えたことがあるか?(n=3076)
図1 起業したいと考えたことがあるか?(n=3076)
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 日本政策金融公庫総合研究所が2016年3月に発表した「2015年度 起業と起業意識に関する調査」のアンケート結果では、「起業に関心あり」が17.7%、「以前は起業に関心があった」が11.9%、「以前も今も起業に関心なし」が70.4%となっている(全国の18~69歳までの男女26万608人にインターネットによるアンケートを実施)。この結果と比べる限りは、医師の起業への関心はやや低めのようだ。

 次に、起業したいと考えたことがあると回答した割合を、男女別、年代別、所属別に見ていくと、男女別では男性がやや高かったものの、大きな差は見られなかった(図2a)。

図2a 男女別の起業したいと考えたことがある割合(男性=2766、女性=310)
図2a 男女別の起業したいと考えたことがある割合(男性=2766、女性=310)
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 年代別では、20代と60代がそれぞれ16.4%、16.5%と、他の年代に比べて高めの結果となった(図2b)。まだ20代のうちは起業に対する関心が比較的高いものの、30~50代になると本業に没頭するようになる傾向を示していると推察できる。60代で再び高くなっているのは、セカンドキャリアへの意識なのかもしれない。

図2b 年代別の起業したいと考えたことがある割合(20歳代=67、30歳代=441、40歳代=829、50歳代=1170、60歳代=504、70歳以上=65)
図2b 年代別の起業したいと考えたことがある割合(20歳代=67、30歳代=441、40歳代=829、50歳代=1170、60歳代=504、70歳以上=65)
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 所属別では、勤務医に比べて開業医の割合がやや低くなった(図2c)。これは、開業自体が起業に近い意識があることの表れと言えそうだ。

図2c 所属別にみた起業したいと考えたことがある割合(病院勤務医=2136、診療所勤務医=391、開業医=483、その他=66)
図2c 所属別にみた起業したいと考えたことがある割合(病院勤務医=2136、診療所勤務医=391、開業医=483、その他=66)
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 次に、「もし自分が起業すると考えた場合、何が不安だと感じるか?」という質問(複数回答可)に対しては、「起業するつもりはない」が最多となったが、それを除くと「成功するかどうか」が最も多かった。続いて「準備資金」「生活(収入)」「今の仕事への影響」となった。「将来、今の仕事に戻れるか」への心配は少ないことが分かった(図3)。

図3 起業する場合、何が不安?(複数回答可)
図3 起業する場合、何が不安?(複数回答可)
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本アンケートではこの他、「ベンチャー企業に対してどのような課題の解決を期待しているか」「注目しているベンチャー企業はどこか」といった点も尋ねました。これらの結果は、12/11発行の「日経デジタルヘルス年鑑2018」に掲載しています。