「日経メディカル」記者の眼、2015年10月14日付の記事より

 名古屋大学医学部はトヨタ自動車、中部品質管理協会と連携し、「明日の医療の質向上をリードする医師養成プログラム」(ASUISHI =あすいし)を立ち上げ、2015年10月5日にその第1期を開講した。

 臨床を熟知し課題解決能力に長けた中堅医師を対象に、患者安全(医療安全)と感染制御、医療の質管理の専門性を持つリーダー医師を養成するのが狙い。メインコース、患者安全インテンシブ、感染制御インテンシブの3コースからなり、メインコースの受講者は約140時間のカリキュラムを約6カ月かけて履修する(他の2コースは約40時間)。

 患者安全や感染制御のカリキュラムに関しては、名古屋大学医学部附属病院の医療基盤部門(医療の質・安全管理部、中央感染制御部、メディカルITセンター、先端医療・臨床研究支援センターなど)が中心となってサポートする体制で実施する。質の管理、例えば患者誤認や投薬インシデントなど業務プロセスの不具合による患者安全上の問題解決・改善に関しては、トヨタ自動車などの製造業で確立された問題解決の標準手法に基づくテーマ学習カリキュラムとなっている。実際の施設の課題を用いてアドバイスを受けながら半年かけて組織の改善を経験する。また受講者はトヨタ自動車などの工場に出向き、品質管理の研修を受ける。

 トヨタ自動車といえば、言わずと知れた、新車販売台数世界一の座を維持し続ける、日本が世界に誇るエクセレントカンパニー。製造工程で不具合が生じたときに機械を止めて原因を分析し工程を改善することで品質を確保する「自工程完結」(品質は工程で造り込む)や、徹底的に無駄を省いて生産管理する、「かんばん方式」とも呼ばれるトヨタ生産方式[TPS](品質の良いモノを安くタイムリーに顧客に届ける)でも知られる。そんな「世界のトヨタ」の哲学を医療現場に応用しようというのだ。 

 「医療の弱点は『業務工程』がばらばらなこと。専門家の集まりでそれぞれやっていることが違っていて、同じ病院でも病棟によってルールが違っていたりする。そのばらつきを抑えることで初めて成果が均一になるというのが品質管理の基本原則なのだが、医療界はそうしたばらつきの測り方、抑え方を学んでこなかった。それを、同じ中部を拠点とする品質管理の本家から直接習おうと考えた」と、名古屋大病院医療の質・安全管理部教授の長尾能雅氏は、トヨタとタイアップした理由を説明する。

 そして、文部科学省大学改革推進等補助金 「課題解決型高度医療人材育成プログラム」に応募したところ採択され、産業界との異色のコラボによるプロジェクトが実施の運びとなった。第1期は各地の病院に勤務する医師16人(うちメインコース12人)の受講者でスタートする。