※「日経メディカルOnline『記者の眼』より

 「数年後には、在宅医療の提供が診療所の必須要件となるのではないか」――。最近、取材をしていて、そう感じることがとても多い。そこで今回の『記者の眼』では、診療所が在宅医療を手掛けなければならなくなると考える理由を解説したい。

国民への普及啓発に向け「全国在宅医療会議」が発足

 在宅医療の需要は、今後一層増す。政府の社会保障制度改革本部に設置された「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」は、2025年に居宅や介護施設、高齢者住宅などで在宅医療等による対応が追加的に必要になる患者が29.7万~33.7万人程度になると推計。だが、高まる需要に対し、在宅医療の担い手は足りていないのが現状だ。

 このため、国は在宅医療の普及に向けて、国民に対しても、医療者に対しても、様々な策を打ち出そうとしている。

 国民に対しては意識の改革を求めていく。今年7月、関係団体や研究機関、学会、住民などで構成される「全国在宅医療会議」が発足した。会議では、在宅医療の特性を踏まえた適切な臨床評価指標のあり方、在宅医療の普及啓発に向けた効果的な情報発信の方策などについて検討する。入院患者の中には在宅医療への移行を望む人が少ない現状を踏まえ、適切な臨床評価指標を用いて在宅医療の特徴やメリットを分かりやすく国民に啓発し、在宅医療を普及させたい考えだ。

 医療者に対しては、診療報酬の見直しにより在宅医療の提供を求めていく。

 2016年度診療報酬改定では、在宅医療における収入の柱となる在宅時医学総合管理料(在医総管)などの管理料の報酬体系が大きく見直された。具体的には、(1)一つの建物の中で診ている患者数に応じて点数を細分化、(2)重症度の高い患者への診療をより手厚く評価、(3)月1回の訪問診療でも算定できる管理料を新設――の三つだ(図1)。既に在宅医療を手掛けている医療機関の経営にとって最も影響が大きかったのは(1)だが、在宅医療の担い手を増やすという観点から注目すべきは(3)だろう。

図1 在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料の見直し(処方箋を交付する場合)
図1 在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料の見直し(処方箋を交付する場合)
月1回算定できる管理料について、患者数に応じて点数を細分化したり、重症度の高い患者でより高い点数を設定したり、月1回の訪問診療で算定できる管理料を新設した
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 従来、在医総管を算定するには、計画的な医学管理の下で月2回以上の定期的な訪問診療を行う必要があった。だが、今回の改定では月1回の訪問診療でも算定できる管理料が新設された。

 こうした点数ができた背景には、二つの狙いがあるとみられる。一つは、状態の安定している患者に対する訪問診療は月1回とし、空いた時間でより多くの患者を診てほしいという、「1人の医師が診る在宅患者数を増やす」狙い。もう一つは、在宅医療を手掛けていない医師にも、外来通院が困難になった患者への訪問診療を行ってほしいという、「在宅医療を提供する医師数を増やす」狙いだ。