事物に名前を与えること、すなわちネーミングほどあらゆる業界で共通に重視され、関係者が頭を悩ませる作業は少ないかもしれません。短い言葉の中に、伝えたいメッセージをいかに込めるか。我々メディアの仕事でも媒体名や書籍名、セミナー名、最も身近なところでは記事タイトルに最後の最後まで頭を悩ませます。

 最近、関係者を取材する中でネーミングへのこだわりを感じるようになったのが「遠隔診療」という言葉。スマートフォンやパソコンのビデオチャット機能などを使い、インターネットを介して医師が診療を行う形態を指しますが、従来は「遠隔医療」のうち主に医師と患者をつなぐDtoP(Doctor to Patient)の領域を指す言葉として使われてきました。ところが最近はこの呼称を敬遠し、「オンライン診療」などの呼び方を好む関係者が増えています。

 遠隔診療という言葉には、互いに遠く離れた場所にいる患者と医師をつなぐというニュアンスがある。単に距離の制約を解消するだけではなく、時間的制約の解消を含めた医療の新たな選択肢となることを目指すうえではふさわしくない呼称だというのが、その理由のようです。

 ICTを活用した新しい医療のあり方を提言している医療法人社団鉄祐会理事長でインテグリティ・ヘルスケア 代表取締役会長の武藤真祐氏は次のように指摘しています(関連記事1同2)。「外来と在宅、遠隔診療という形態にはそれぞれの良さがあり、どれが最も良いかという一元論では語れない。それらの組み合わせを、それぞれの患者の疾患や生活環境、経済環境に応じた“引き出し”として用意できることが大切だ。それを既存の医療のインフラにいかに組み込んでいけるかがポイントになる」。

 対面診療を基本とする既存の医療インフラと対立する概念ではなく、その中にいかに組み込んでいけるかという視点に立ったネーミング。その一例がオンライン診療というわけです。オンラインサービスが世の中のあらゆる場面で活用されている時代に、こと医療に関してだけオンラインという選択肢がないのはおかしい。関係者のそんな思いがにじみ出ています。こうした言葉の選び方一つをとっても、遠隔診療に関する議論は深まりつつあるのでしょう。

 日経デジタルヘルスは9月14日、「動きだす遠隔診療 ~2018年度診療報酬改定に向けた、行政・医療現場・産業界の最前線~」と題するセミナーを東京・秋葉原で開催します。厚生労働省が2017年夏に新しい通知を発出し、2018年度診療報酬改定での評価にも注目が集まる遠隔診療の最新動向を、上述の武藤氏をはじめ行政・医療界・産業界のキーパーソンが語ります。ぜひ足をお運びください。